「ホントに俺で良かったのか?」
俺は結局、同僚と一緒に帰ることを選んだ。
護衛という意味を考えればカヴェル程ピッタリな人間は居ないと思うが、それでも俺はカヴェルの手を取ることが少し怖かった。
「いいんだよ。」
それは別にカヴェルを疑ってるからって訳じゃない。
そりゃあ確かに最初に教えてもらった花の意味に【一目惚れ】があるって聞いた瞬間は一瞬だけ疑ったけど、
でもそもそもカヴェルが俺に一目惚れだのなんだのほざいたのは薔薇が置かれる一週間も前だ。
その間何度も何度も声高らかに口説き文句っぽいことを言っておきながらコソコソとする理由が全く思いつかない。
大体、アイツに毎日毎日花を贈る時間なんて無いしな。
じゃあ何故同僚を選んだか………
簡単だ、俺がただカヴェルに縋って駄々を捏ねそうな気がしたからだ。
「カヴェルはハイランクの冒険者様だぞ?わざわざ俺なんかに手を煩わせるなんて烏滸がましいにも程がある。」
自分自身に言い聞かせるようにそう言えば、何故か同僚は呆れたように溜息を吐いた。
お前がそれでいいならと言われたが、他に何を望めと言うのだろうか?
あんなにも美しくて逞しい男が俺を少しでも気にかけてくれた。
それだけで、喜ぶべきなんだ。
「でも明日はカヴェルの所に居ろよな?」
「あのなー。カヴェルも暇じゃないだろ。」
今度は俺が同僚の言葉に呆れる番だった。
さっきも言ったがハイランクの冒険者であるカヴェルはご指名依頼を受けまくる程の人気者だ。
噂でそう聞いた時そんなのもあるのかと驚いて思わず酒場に現れたカヴェルに聞けば、気まずそうな笑顔を浮かべながらそうだと頷いたので間違いない。
この街に来たのも、あまりに有名になり過ぎてゆっくり休む暇が取れないから知り合いが居ない所に行きたかったのだと言っていた。
そんな多忙な男を、どうして振り回せようか。
「カヴェルはお前の傍に居たいんだと思うぞ………」
「なにそれ。だとしたら尚更ダメだろ。」
俺が口を滑らせてしまったから、そのせいで関わらざるを得なくなったから、だからカヴェルは気にしているだけ。
それはちゃんと理解しているけれど、でも俺は馬鹿だから勘違いしてしまうかもしれない。
だから尚更、カヴェルの傍に居てはダメだ。
「そうだよ、シルファ。君は私の傍に居ないと。」
カヴェルとの一線をより強くしようと決意した途端に耳元に聞こえた、聞こえる筈のない声。
その声に何故だと疑問を持つよりも早く、俺の意識はブラックアウトした。
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