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そんなことが積み重なれば長谷川さんと一緒に居る時間がホントにつまらなくなって、
惰性で付き合ってはいるけれども個人的にはもう限界だった。
週明けには別れようと思ったけど、絶対モメるだろうから憂鬱で仕方ない。
気晴らしと相談も兼ねて、俺は尊と一緒に街に出掛けることにした。

「どこ行くの?」
「んー、尊の行きたい所行きたい。どこにしようか。」
「じゃあさ、服買いたい!」

尊が楽しそうに笑ってくれる。
それだけで憂鬱だった気分が一気に晴れやかになった気がした。
手を繋いで、よく行く服屋に行く。
とはいえ金がある訳じゃないから、格好つけた言い方しても結局は低価格の服屋だ。
それでも組み合わせ次第ではその辺のハイブランドの服よりもオシャレに見えるから、まだ学生の内はそれくらいが丁度良いと思っている。
でも大人になって就職したら、初任給で尊にハイブランドの服を買ってやるんだ。

「最近暑くなってきたもんね。」
「ね!涼しいの欲しい!」

尊の希望を元に、どんな服が良いか考える。
尊は自分自身をよく【平凡な容姿。どこにでも居るモブ】と称するが、そこはまぁ………否定しない。
電車とかバスとか乗ると、尊に似てるなって人はちょいちょい見るから。
でもだからこそ、わりとどんな服でも合わせやすかったりはする。
そこには困らないんだけど、尊は日に焼けると真っ赤になって暫く腫れてしまう体質を持っている。
直射日光さえ避ければ良いんだけど、そうなると尊の服装は長袖一択になるのでこの時期は本当に難しくなる。

「ねぇ和史くん。」
「ん?」

尊が俺の顔を下から覗き込むように見上げてくる。
ねだりたい事がある時だけするこの行為が、何気に好きだったりする。
だって頼られてるみたいじゃん。

「服選び、手伝って欲しい。」
「良いよ。というかそのつもりだった。」

やったぁ!と尊が喜んで、俺の腕にピッタリと寄り添う。
尊のどんな表情も好きだけど、嬉しそうな表情が一番好き。
尊が俺に怒ってるならちゃんと反省するし、尊が喜んでくれるならなんだってする。
だって尊は俺の―――

「(俺の、なんだ?)」

幼馴染、だけではない気がする。
ずっと傍に居てくれた家族………?
しっくりくるような、こないような。
じゃあ他に何か―――

「和史くん?どうしたの?」
「あ、いやごめん。なに選ぼうかなって考えてた。」

突然ぼーっとした俺を訝しんだのか、尊が不安そうに俺の名前を呼んだ。
尊の色んな表情を見たいけど、不安にしたり悲しませたりしたい訳じゃない。
咄嗟に嘘でもなければ本当でもないことを言って誤魔化したけど、服屋に着くまでの間、ずっと同じことがグルグルと頭の中を巡った。

俺は、尊にとっての何になりたいのだろう?
尊を俺にとってのどういう位置に置きたいのだろう?

服屋に着いて暫くしたら思考が落ち着いたけど、なんだか気分がソワソワとして落ち着かない。
尊が楽しそうに服を選ぶ姿にドキドキするし、ちょっとどうよって思うようなセンスで俺の服を選ぶのがすごく照れくさくてでも嬉しくて。

「ねぇねぇ和史くん!」
「ん?」
「和史くんはどっちが好き?」

ワクワクとしながら、尊が二種類の薄手のジャケットを手に取った。
尊は服を選ぶ時、いつもこの聞き方をしてくれる。
この聞き方は好きだ。
俺の意見を言っていいんだってちゃんと分かるから。
でも長谷川さんは「ねぇ?どっちが似合う?」って聞いてくる。
それ聞かれたらどっちも似合うよとしか言えないし、俺の意見必要なくね?ってなる。

「どっちも尊に似合うだろうから好きだけど、俺はこっちの方が好き。」
「ありがと!試着してくるね!」

右側の服を指してそう言えば、尊はウキウキとしながら試着室に向かった。
尊の服の大半は俺が選んだやつだけど、本音を言うなら全部が全部俺が選んだやつにしたいし、なんなら俺が買ったやつにしたい。
頭の先からつま先まで、俺好みの服で着飾りたい。

試着してサイズが丁度良かったのか会計へと向かう尊の背中を見つめながら、
なんとなく尊が「どっちが似合う?」って聞いたとしても俺は俺の好みの意見を言うような気がした。
なんで尊だけこんなにも特別なんだろうか?

「ごめんね、お待たせ!」
「ううん。気に入ってもらえて嬉しい。」

会計を終えた尊が持っていた荷物を自然と持って、尊の背中に手を回す。
尊の役に立ちたいし、尊にいっぱい褒めて欲しい。
やっぱり長谷川さんとは別れよう。
だって、尊と一緒に居る時間が無くなってしまうから。



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