「ご馳走様でした。」
「はい、お粗末さまでした。」
今日も今日とてそこらのお店よりも断然美味しい尊の料理に舌鼓を打てば、あっという間に間食してしまう。
尊はいつもプロには負けると謙遜するけど、個人的には外食するよりも尊の手料理の方が美味しいと思う。
三食全部作らせていてかなり負担かけていることは分かっているけれど、それでもコンビニ弁当は味気無く感じてしまうからついつい甘えてしまう。
「お風呂沸かすね。待ってる間どうする?クッキー食べる?」
「食べる!」
クッキーは好きだ。
特にチョコチップが入っているやつ。
部活で疲れた身体に美味しいご飯と美味しい糖分は本当にありがたい。
俺がウキウキで空いた食器を片付けている間、尊がクッキーの乗ったお皿を出してくれる。
チョコチップの乗った俺の大好物のクッキー。
洗い残しのないように気を付けながら、しっかりと食器を洗い終わるとタイミング良く風呂が沸いた音楽が流れてきたけれど先にクッキー食べたい。
「いただきまーす!」
呆れたような顔を尊にされたけど、気にせずサックリと一枚。
うん、やっぱり美味い。
「どうしたの、和史くん。美味しくなかった?」
「え?美味しいよ!何で?」
「眉間、すっごい皺寄ってた。」
無理しないでいいよと尊がクッキーの皿を取ろうとするから、行儀が悪いと思いながらも慌てて俺の頭の高さまで持ち上げる。
俺と尊はかなり身長差があるからこうするとジャンプしないと届かないし、そうするとお皿がひっくり返ってしまうので尊は諦めるしかない。
案の定不服そうな顔をして俺から皿を取り上げることを諦めた尊にホッとしつつ、つらつらと言い訳を述べる。
「今日長谷川さんから調理実習で作ったクッキー貰ってさ」
「長谷川さんって和史くんが気になるって言ってた長谷川さん?やったじゃん!脈アリだね!」
「そうなんだけどさぁ………」
皿を元通りテーブルの上に置いて、また新しく一枚口に入れる。
俺の好きなクッキー。
焼き立てでも冷めてでもサクサクで美味しい、尊のクッキー。
「………甘ったるくてあんまり美味しくなかった。」
本人が居ないところで言うのは陰口のようで気が引けるが、長谷川さんから貰ったクッキーはお世辞にも美味しいとは言えなかった。
尊が作るクッキーはいくらでも食べれるのに、長谷川さんのクッキーは一枚食べただけで次にいけなくて結局友達にやってしまったくらいだ。
しかも若干ベタベタしたんだよな………。
「長谷川さん、お菓子作り初めてだったんじゃない?難しいんだよ?」
「うん、それは知ってるけど………俺やっぱり尊のクッキーの方が好きだわ。」
お菓子作りが難しいことは、尊が作り始めた時から見てるから知ってる。
それこそ最初は漫画みたいな丸焦げのクッキーが沢山できてたし、見た目がマシになっても中が生焼けだったりってこともあった。
でもなんでだろう………尊のクッキーじゃないってだけで、美味しくないから食べたくないと思ってしまった。
「長谷川さんが上手にクッキー焼けたら、俺のクッキーはお払い箱かな?」
「そんなことないよ!俺は尊のクッキーが好き!」
尊が苦笑しながら言った言葉に俺は思わずギョッした。
お払い箱ってなに?
俺は尊のクッキーが好きなのに、食べられないのは嫌だ。
「一番?」
「一番とかそんなんじゃなくて、尊のクッキーが好きなの」
好きな子のクッキーを無理して食べるより美味しい尊のクッキー食べたいし、尊のクッキー食べられないんだったら他は食べたくない。
そんな気持ちを込めて尊にそう言えば、尊はちょっと驚いたような顔をした後、すごく嬉しそうな顔で笑ってくれた。
「嬉しい、ありがとう。」
ありがとうはこっちのセリフなんだけどなと思いつつ、俺は尊をギュッと抱き締めた。
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