「あの、和史くん!私、和史くんのこと好きなの!付き合ってください!」
「マジで!?あの、俺も実は長谷川さんのことずっといいなって思ってて………俺でよければ、付き合ってください。」
あの日から二週間くらい経ったある日、俺は長谷川さんから告白されて付き合うことになった。
最初は何をするにもドキドキしたし、楽しかった。
お昼を一緒に食べるのも、放課後一緒に帰るのも、土曜日か日曜日かにデートするのも。
でも付き合いだして一ヶ月くらいで、なんだか段々おかしくなった。
「ねぇ、いつも思ってたんだけど、そのお弁当誰が作ってるの?お母さん?」
「ん?尊だよ。母さんは夜働いてて朝起きれないから、尊が自分のついでにって作ってくれる。」
「ふぅん。じゃあさ、今度から私が作ってくるから私のお弁当食べてよ!」
キッカケ………だと俺は勝手に思ってるんだけど、とにかくおかしいなって思い始めたのはこの時からだ。
言われた意味が分からずに唖然とする俺に、長谷川さんは名案だと言わんばかりに言葉を続ける。
太田くんだって大変だろうしとか耳障りの良い言葉から、太田くんの料理なら私が作っても変わらないでしょ?という意味が分からない言葉まで。
「太田くんに言いづらいなら私が言ってあげるよ!」
長谷川さんはキラキラした目でそう言ったけど、俺はなんだか怖くて自分で言うよと首を横に振った。
でもなんでわざわざ尊の弁当を断らないといけないんだろうと思いながら、俺はとりあえず尊にメッセージを送った。
『長谷川さんが尊の代わりにお弁当作ってるって言ってるから、明日はとりあえずお弁当無しでお願いします。』
なんとなくモヤモヤとした気持ちなのは、クッキーの件があるからだろうか。
この間もクッキー貰ったけど、やっぱり甘ったるくて美味しいとは言えなかった。
それなのにお弁当も………?
『分かった!』
『彼女からの手作り弁当良かったじゃん!』
ニコニコと笑顔の猫のスタンプと共に送られてきたメッセージに、ちょっとだけムッとしてしまう。
俺は尊のお弁当が食べたいのに。
「どうしたの?太田くんまさか反対してるの?」
「いや、大丈夫だよ。」
いっそ反対してくれたら良いのにと思うのはワガママか。
ジクジクとした違和感は、彼女に対して嫌な思いばかりを運んでくる。
例えば食事中のマナーだったり、声のトーンだったり。
尊からマナーをキチンとしておかないと相手に不快な思いをさせてしまうと日頃から言われていたけれど、こういうことかと理解してしまう程には汚い。
こんな子だと思わなかったというガッカリとした感情と、こんな子に料理作って欲しくないという嫌悪感。
「じゃあ明日、作ってくるね!」
「うん。」
明日腹痛起こそうかな。
でもそんな訳にもいかないし、奇跡的に本当に腹痛が………とも思ったけどそんな奇跡も起こる筈もなく。
俺は次の日ちゃんと彼女が作ったのを食べたけど、全然美味しくなかった。
いや、美味しいと言えば美味しいんだけど、尊の料理の方が断然美味しい。
偏食で好き嫌い激しいからっていうのを言い訳に、次の日からのは断った。
「教えてくれたら入れないよ!」
必死にそう言われても、そもそも食べたくないんだって察して欲しい。
ごめんねって申し訳なさそうな顔を作れば渋々って感じで諦めてくれたけど、俺としてはここまで言わせないで欲しかった。
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