俺には幼馴染が居る。
母子家庭で育った俺と、両親共に揃っているが仕事で滅多に帰って来ない幼馴染。
互いの親の利害が一致したのか、はたまた何か他に思惑があったのか。
気が付けば俺は母さんが仕事で留守をしている昼から深夜にかけては幼馴染の家で過ごし、寝る時に自分の家に帰るという生活をしていた。
明らかにおかしい生活ではあったが、それでも俺は別に困ったこともなければ嫌なこともなかった。
「ただいまー」
なんなら高校生となった今、俺にとっての家族は幼馴染だけだと思っている。
だからこそ、なんの迷いもなく幼馴染が待つ家の扉を開けるし、こうして帰りの挨拶を自然と口に出すのだ。
「おかえり、和史(カズシ)くん。」
パタパタとスリッパの音を立てながら、幼馴染が玄関まで出迎えてくれる。
申し訳ないなと思いつつも、だからこそ帰って来たって実感も出るし寂しくない。
俺が変にひねくれずに大人になれたのは、間違いなく彼のおかげだ。
「連絡くれたから間に合うようにご飯温めれたよ、ありがとう。」
「ううん、俺こそいつも美味しいご飯ありがとう。尊(ミコト)。」
ご飯を作ってもらってる身だし、帰りの時間を連絡するのは当たり前のことなのに、幼馴染………尊はいつも感謝してくれる。
尊は本当に優しいし、それでいて凄い。
そんな尊みたいな人間になりたくて、俺はちゃんと尊に感謝の言葉を口にするようにしている。
「ふふっ、そう言ってもらえると作り甲斐があるな。
ほら、荷物は俺が部屋に置くから、早く手洗いうがいして。折角温めたご飯冷めちゃう。」
俺が去年の誕生日にあげたブラウンのエプロンを外しながら、尊は俺の鞄を持ってくれる。
いつも本当に申し訳ないなと思っている。
でも部活で消費しまくったカロリーを早く尊の美味しい料理で補充したい俺は、今日も今日とて尊の優しさに甘えて手洗い場へと急ぐのだった。
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