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話は変わるかもしれないが、私は隔離されて暮らしている。
何故なのかは知らないが、気付いた時にはそうだったので何も気にしていない。
寧ろ都合が良いと思ったのは、謎の男が一人屋敷の中に増えた所で誰も何も言わないし気にしないのだ。

「素晴らしい!」
「良くねえよ。セキュリティ的に問題あるだろ。」

数人居る使用人は私がまだ6歳なのを良い事に好き勝手やっている。
例えば一応屋敷の主である筈の私を使用人部屋に追い立てたりとか。
でもまあそれも都合が良い話だ。
ちょっと漁れば、それっぽいお仕着せも簡単に見付かる。
嘘。
この世界の事とか、私の事とかある程度教え終わった頃に出てきたから、それなりに時間がかかってしまった。

「入る?」
「丁度良いな。似合うか?お嬢様。」

顔から考えて似合うかどうかは分からないからそれには首を傾げ、
けれども屈伸などさせても布が引っ張られ過ぎている様子もないから大丈夫だろうとサムズアップする。
でも執事なんかさせて大丈夫なのだろうかという不安は、一晩寝たらすっきりと解消されてしまった。
なんとこの男、家事的なことも護衛的なこともお任せあれのオールラウンダーだったのだ。
魔法もちょっと教えれば攻撃魔法中心とはいえあっさり覚えたし、なによりも助かったのはその記憶力だ。
一度対面した人間の事は、名前も含めて絶対に忘れない。

執事の【チャッキー】は、【アーリア・ヴィステント】にとって片時も手放せないカンペとなってしまった。

覚えれる訳ではないが最強のカンペを手に入れた事によって家同士のコミュニケーションや、
こっそりとチャッキーと二人で兄妹として冒険者活動に勤しむのにも問題がなくなった10歳の頃、何故か次の問題を引き起こしてきた。

「あーの………?」
「アーノルド・フォン・ラーシェント伯爵令息。騎士団の希望の星。お前の婚約者だそうだ。」

何故かチャッキーが持ってきた釣書を見る。
当然の事ながら、両親には急にコミュニケーションが取れるようになった仕掛けがなんとなくとはいえバレているらしい。
給金を払ってないくせに偉そうにチャッキーを呼びつけては用事を押し付けてくる。
止めて欲しい。
低級冒険者の安月給で雇ってんだぞ。

「ファーミアの間違いじゃなくて?」
「否、お前でご指名だ。手違いでもなくな。」

私の目には相変わらず人の顔だというだけでよくわからない。
この世界で唯一認識出来ているのは、チャッキーだけ。
それにしても、どうするか。
そろそろどう死ぬかの計画を立てようかという大事な時なのに、婚約者なんて邪魔で邪魔でしょうがない。

「あの人達はなんて言ってるの?」
「たまには役に立つようだな、だと。ファーミアは恐らく同年代の公爵令息を狙わせるつもりなんだろうな。イイ年した伯爵令息じゃなく。」


聞けばそのあーなんたらさんは19歳だそうだ。
確かに、その歳まで婚約者が居ないなんて人間性を疑われるレベルではあるし、
私より5歳下のファーミアが結婚できるような歳になった時にはもう、ね。

「婚約、ヤダ。」

いろんなやらなきゃいけない事もある。
なにより今迄みたいにちょろちょろ抜け出して冒険者として日銭を稼いだり、死んだ後のコネクションを紡いだりが難しくなってしまう。

「………俺に言ったところでどうしようもないだろう。」

ぐしゃぐしゃと頭をかき混ぜられる。
嬉しいけど、これも大事な商品なので乱暴にするのは止めて欲しい。
十代の艶やか髪という付加価値を危険に晒すでないよ。

「ま、お前性格悪いからすぐ婚約破棄されるだろ。それまでおにーちゃんが稼いでやるよ。」
「チャッキーの給金を、チャーリーが稼ぐの?」

なんてとんちんかんな話だ!
と思ったが、そもそもチャッキーの給金をアリサが稼いでいるというのもおかしな話か?
頭が混乱してきたぞ?

「頭悪いから考えるな。顔合わせまで、まだ時間があるしな。」

さっきからあまりにも普通に馬鹿にされたが、確かに頭も性格も悪いのは事実なので黙っておく。
しかし婚約者、か。
何をどうトチ狂って私なんかを指名することになったのかはしらないが、直ぐ婚約者を亡くす事になるなんて、可哀想。

「決めた!」
「何を?」
「【私】、六年後に死ぬわ!」

なるべくのところ早く死ぬ方が良いだろう。
変な情みたいのが………あーなんたらさんが私に抱くのかは知らんが、それでも万が一にも抱いてしまっては大変だ。
本当はもっと早く死ぬのが向こうの年齢的には良いのだろうけど仕方ない。
まだぜーんぜん準備出来てないんだもん!



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