12

何もしたくない。
それかいっそ、目が回る程の忙しさが欲しい。
そう思う日に限って、どうしても俺が動かないと行けない案件があったり、
それでいてそう忙しくもなく………ただ時間の流れがゆっくりと過ぎていく。

辛い………もう、帰りたい。

認めたくない現実が、すぐ後ろに近付いている気がする。
昼休みの間、社内のどこもかしこもが康介と蘭の話で盛り上がっている。
そこに嫌悪感はない。
どの話も、あの蘭が何故康介に?という純粋な疑問と好奇心ばかりで構成されていた。

「あ、銀山!蘭知らない?」
「食堂絶対騒がしいからだろうからって、藤代と一緒にどっか行ったー。」
「ええー?てかさ、ねね、あの二人マジで付き合ってんの?」

………他人の話で、なんでそんなに盛り上がれるんだ。
聞きたくもない話が、嫌でも入ってくる。
頼んでいた定食を食べて誤魔化そうとするが、味が全くしない。
まるで砂を噛んでいるような気分だ。

「マジだよ!昨日プライベートの二人と会ったんだけどさぁ、もう蘭が藤代にデレデレベタベタだし、藤代も藤代で蘭のこと子供扱い!」
「子供扱い!?クソガキ扱いじゃなくて!?」
「子供扱い。蘭がワガママ言っても、仕方ないって感じで受け入れてやってるし、蘭が当たり前なことをドヤ顔でやっても一々褒めてやってるわ。ありゃあ確かに喧嘩になんねぇよ。」
「なにそれ全部気になる。」

銀山の笑い声が、頭に響く。
昨日………?
あの後、銀山の家に行ったのか。
それでここまで噂の広まりが早いのか………やられた………蘭の姑息
さの方が上手だったか………!

「びっくりしたマジで。あの蘭も人の子なんだなぁ………藤代ちいせぇのに、あのでっけぇ身体で全力で寄りかかっててさ。藤代も楽しそうに受け入れてて笑ったわ。」
「大型犬じゃん。藤代流石に可哀想。あの二人身長差何センチよ。」
「蘭は180だぞ。この間健康診断の結果覗き見したから間違いない。藤代はギリ160台?」

失礼な、161あるぞ康介は。
それでも俺との差は20センチあるが。
小さくて可愛い。
それなのにあんなクソデカい男に絡まれて可哀想に。
どうして蘭なんかと浮気したんだろう。
俺の方がよっぽど君のことを想っているし愛している。

「でも幸せそうだったなー、羨ましい。」
「銀山はまずその口の軽さをどうにかした方が良いと思うよー。」

話題はそのまま銀山のことに移った。
聞きたくない話題が終わったことにホッとしながら、もう一口、定食を口にする。
やはり味なんて何もしなくて、俺は流し込むように残りを口の中に入れた。



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