康介から根掘り葉掘り聞きだしたいのか、
しきりに泊まって行けと連呼する銀山を振り解くように家へと帰る。
なんだかんだ、俺も疲れてるし当事者の康介なんてもっと疲れてるしな。
玄関のカギを開けながらそう思っていたのが、ふと、ろくでもないことを思いついてしまう。
というか、このストーカー騒動が起きなかったらそのつもりだったから俺悪くないよな?
「康介。」
「ん?」
「おかえり。」
部屋の中に入った直後に言った俺の言葉に、
康介がきょとんとした顔を一瞬だけしたけれど、その直後にすごく嬉しそうに破顔した。
嗚呼、本気で帰したくない。
この騒動が落ち着いたら一応家に帰してやるつもりではいたけど、
そもそもあんなセキュリティマイナスな家とも呼べない家に帰す必要なくないか?
もうここに住めば………
「あ。お前のスーツ。」
「ああ。」
忘れてた。
そもそもあの家に行ったのは飯を食うだけじゃなくて、今日元々泊めるつもりだったからスーツを取りに行った訳だ。
今更戻るのも危険だし、明日仕事どうするよ………
「そのことなんだけね、実は………」
「ん?」
「持ってきてるの、最初から。そこに勝手にかけてる。」
「は?」
すごく言い辛そうに言われた言葉が一瞬理解できなくて、
だが理解出来た瞬間、なんとも言えない歓喜がじわじわと込み上げてくる。
期待、してくれていたのか?
【お試し】だって、自分から言い出したのに。
でも期待しても良いと思うくらいには、好きで居てくれてるってことだろ?
あの部屋でちゃんと好きだと言ってもらえたけど、実感するとヤバい。
「康介。」
「耀司くん?………わっ!」
「好きだ。」
視線を彷徨わせ、もじもじと所在無さげな仕草をする康介を強く抱き締める。
まずい。
嬉しい。
コイツの元カレ共、よくコイツと別れられたな。
ざまぁみろ、ありがとな。
「うん、知ってる。ありがとう。」
俺の頭に手を伸ばして、優しく撫でてくれる。
スーツ、後でちゃんとワードローブにかけてやろう。
つか今度マジでコイツ用のワードローブ買おう。
後でネットで目星をつけて………いや、二人で一緒に家具屋に直接見に行くのも良いな。
「ほら、明日も仕事だし、お風呂入って寝よう?」
「ん。」
俺の背中をぽんぽんと叩いて離れるように促してくるから、仕方なく離れてやる。
………が、寂しいし寒い。
思わず眉根寄せれば、康介は苦笑しながら俺の手を握って勝手知ったるといった感じでリビングへと向かって行く。
もうこのまま康介ん家になればいいのに。
俺と康介の家。
「ねえ、耀司くん。」
「ん?」
「お風呂、一緒に入る?なーんて。」
「入る」
は?
なんだそれ。
一緒に入る一択だが?
感情のまま即答した俺に、康介はちょっと引いたような呆れた笑みを浮かべる。
「自分で言ってて引いてんじゃねぇよ。」
「いや、本当に良いの?僕男だよ?」
ん?なんだその今更な話。
男なのは最初から知ってるが?
知ってて告白した訳だが?
「風呂、入んねぇのか?一緒に入らねぇなら今日風呂入らない。」
「またそういう事を言う………営業職なんだから身嗜みしっかりしなきゃでしょ?」
手を離しソファに座り込む俺に、康介が目線を合わせるように屈んでそう言ったが、知るか。
俺に期待させた方が悪い。
クッションを抱き締めて本格的にストの体制をとる俺に、
康介は暫く様子を見るように黙った後、俺の頭を優しく撫でた。
「………分かった。一緒に入ろう。お風呂掃除してくるから。」
「ん。掃除は俺がするから、準備して待ってろ。」
「そう?ありがとう、良い子だね。」
康介に褒められるのは好きだ。
やっつけ感も無ければお世辞感もない、本当に褒めてくれてるから好きだ。
抱えていたクッションを康介に渡し、意気揚々と風呂掃除に赴く。
パパッと、それでいて綺麗に掃除してもう一回褒めてもらおう。
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