『なぁ、今からお前にとびっきりのネタ提供してやるから、お前ん家に行かせろ。』
プライドは高いが実力も高い、それでいて心配になる程に素直な同僚がそう電話してきたのは、今から数十分前。
はて、そんな友人が出してくるとびっきりのネタとは?
どうせつまんないネタだろうなと思いつつも、
それでもいつも興味無さそうに俺の話を聞いている友人がネタを提供したいだなんて、
どういう風の吹き回しかと興味を持ってしまうのも事実だ。
「いらっしゃーい!」
「………よう。とびっきりの笑顔で出迎えありがとよ。」
さて、どうする?
なんて、考える程でもなく。
俺は理由は言わずただ自分以外ももう一人連れて来るなんて曖昧な言い方をする同僚が、
アイツらしくなくて面白くて仕方ないから一も二もなく俺の家の住所を伝えた。
どうせクズなクセに変な所で律儀で真面目なアイツ、蘭のことだから、
俺の住所を誰それに教えたりもしないだろうし、
カーナビに住所入れてたみたいだがそれも履歴ごと消すだろう。
「とびっきりのネタとか言われたらさ、期待しちゃうじゃん?で?後ろの子がツレ?」
そんなワクワクとした気持ちのまま到着した待ち人とそのツレを出迎えれば、意外や意外。
俺の個人的な偏見まみれの「蘭と相性悪そうな人間ランキング」で堂々の第二位である、藤代康介じゃないか!
いやはやどうして、そんな面白い状況になってるんだ?
もう既にとびっきりなネタ状態なんだが、多分蘭の言いたいネタはこれじゃないんだろう。
なにそれおもしろーい!
「藤代、だよな。おもしれぇ組み合わせ。」
「勝手に面白がってんじゃねぇよ。兎に角入れろ。寒い。」
偉そうにねだってんじゃねえよ、と普通なら怒る所ではある。
………が、どう見てもふっつーな、なんなら中の下くらいなんじゃないの?
って言っても過言じゃないくらいにな藤代を背中に庇いながら言ってるのがマジで面白いから、心の広い俺は秒で許しちゃう。
三度の飯より、面白いことが好きなの。俺は。
「どうぞお上がんなさい。藤代もね。」
「あ、ありがとうございます!」
あら、ちゃんとお礼言えるとか蘭と違っていい子じゃん。
しかも声めっちゃハッキリ出してるし。
会社の印象だと声も小さくてお礼言えない位のコミュ障だと思ったのに。
意外。
「どう致しまして。俺は銀山(かなやま)だよ。よろしくー。」
「よろしくおねがいします。」
ぺこりと頭を下げる藤代と、すっげぇ嫌そうな顔をしながらも俺の家に入る蘭。
面白すぎる光景なのに、爆笑しちゃいけないなんて何の拷問?
これに耐えれた俺を皆褒めるべきだろ。
「で?とびっきりなネタってなんだ?」
リビングに案内してお茶を出してやりながら、本題をぶっこむ。
前置きなんざ要らない。
俺はそもそも面白いネタを聞きたくて、ここに来ることをOKした訳だしな!
「………前提としてだな。」
「うん!」
「俺と康介は付き合ってる。」
「は?はぁ!?」
なんだそれ!
なんだそれ、面白すぎる!
蘭と藤代が!?
お付き合い!恋人同士!!
「えっ!?いつからいつから!?」
「まだ二ヶ月位だよ。てかまず話を聞け。」
思わず鼻息を荒くして立ち上がる俺に、呆れたようにそう言った。
二ヶ月!
蘭が半年くらい前に彼女と大喧嘩して別れたのは知ってたが!
「………それでだな、今めちゃくちゃ困ったことになってる。それがとびっきりのネタだ。」
「えー?なになに?別に付き合いたてカップルの犬も食わないような喧嘩とか興味無いんだが?」
「誰も喧嘩してねぇよ。」
喧嘩してない!?
どんな彼女とも一ヶ月………いや半月あれば些細なことで争い始める蘭が!?
あ、因みにこの情報は蘭の元カノから頂いたありがたい情報だし、蘭にも真偽を確かめたので100%事実です!
そんな蘭が二ヶ月も付き合ってて喧嘩してないだと!?
「お前、秋元の情報欲しがってたよな?」
「秋元?そりゃあ秋元の面白い話はいつだって欲しいさ」
あんな面白味も愛想も無いような男の面白い話なんて、全然想像できなくて逆に面白い。
でもなんで秋元?
アイツ今何も関係なくね?
「アイツ、康介のストーカーしてて今日康介の家に乗り込もうとした。」
「なにそれ楽しすぎ!詳しく聞かせろ!あ、藤代怖い思いしてない?
大丈夫?俺好奇心旺盛な野次馬なだけだから辛い思いしたとかだったら席外しても良いよ?あ、防音室あるよ?」
「え、あっ………大丈夫、です………」
いやー、藤代ってどっちかといえば女子からの評判も悪いしあんまり顔良くねぇよなって思ってたけど、男ウケ良いのか?
ゲイ受け悪そうだけど。
でもうちの会社の女子人気トップの秋元と、
性格が悪いこと分かっててもちょっとだけなら付き合いたいって声が消えない程イケメンな蘭のツートップ堕とすとかやるじゃん。
………ま、正直何が良いの?って感じだけど。
「なんで防音室があるのか気になるが、捲し立てるな。康介がドン引きしてるだろうが。」
「あ、ごめんね?」
まぁ、不安そうに蘭の袖を掴む仕草は、蘭みたいに実は素直で尽くしたがりの奴にはたまんねぇんじゃないの?
しらんけど。
「でもなんで藤代?実は知り合いだったとか?」
「いいえ………正直な話、今日初めて顔と名前を知った位です。」
わぁお。
あの二次元から降って湧いてきたような超絶イケメンの顔も名前も知らなかったのか。
他人に興味無さ過ぎて笑える。
なんとなくだけど蘭もこんな感じの認識されてたりして。
だとしたらよく付き合えたな、この二人。
どういう経緯で付き合い出したかも気になるから後で聞こうっと。
「そなの?でも家に乗り込んで来る位だから秋元は相当執着してるのかね?詳しく聞こうか。」
藤代と蘭には悪いけどさぁ、こーんな面白い話、飛びつかない筈ないじゃん?
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