コンビニであったかい飲み物とおにぎり数個を買って、
取り敢えず今からどうしようかと車の中で話し合うことにした。
………といっても、俺が思ってた動きを話すだけだが。
「取り敢えず、明日アイツが【俺に自分の恋人を奪われた】って騒ぎ出す可能性は十分にある。」
「そうだね。すごく嫌だけど、その可能性は大きいだろうね………」
本気で嫌そうな表情で顔を歪めて、康介は吐き捨てるようにそう言った。
秋元も俺に劣らず顔は良いんだが、気持ち悪さのが上回ったらしい。
だろうな。
あの窃盗事件を目撃した日以上に気持ち悪かったし。
「だから味方をこっち側に引き入れる。必然的に会社の人間に俺達の関係が知られるけど、構わないんだよな?」
「うん、良いよ。」
あっさりとしたいいお返事にちょっと不安になりながら、買ったおにぎりを一口齧る。
ん、康介のおにぎりのがうめぇな。普通に。
「おべんと付けてるよ。」
「ん。ありがと。」
早速康介のおにぎりを恋しく思っていると米粒を口の端に付けてたらしく、康介が摘んで取ってくれた。
この歳になってこれは恥ずかしい。
思わず顔を背けてしまう俺に、康介が笑った気配がした。
「可愛い。」
「うるせ。」
残っていたおにぎりを一気に口に入れ、誤魔化す。
そういう所もガキくせぇって分かってるんだが、
ついやってしまうのは、康介の笑みが馬鹿にしたものじゃないと分かっているからか。
あー、これがコンビニの駐車場じゃなくていつもの駐車場なら思う存分イチャつけるんだけどな。
「さ、電話するか。」
「誰に?」
「………三度の飯より噂話が好きな男。」
俺の言葉に、康介が怪訝そうな顔をする。
分かる。
俺もこんな説明されたらそんな顔するわ。
だけどまぁ、それしか言いようがないんだから仕方ない。
そこんじょそこらの雀よりもぴーちくぱーちく煩く囀るソイツは、
面白いネタがあったら嬉々として飛びつき一瞬で無責任に広げるようなクズだ。
だが他人の顔と名前は一発で覚える記憶力の良さも含めて、使いようによっては役に立つ。
だから俺はそこそこ仲良くしているが、秋元とはバチクソ相性が悪い。
別にアイツが秋元を嫌ってる訳じゃない。
ただ、隙の無い秋元を逆に面白がってアイツがちょっかいかけまくるから、秋元が一方的にアイツを嫌ってる感じだ。
なので寧ろ都合が良い。
「多分、明日の昼頃には会社中に俺とお前が付き合ってることが広がる。」
「………逆にすごいね、それ。」
呆れたように康介がそう言い、それでも俺の頬を撫でながら笑った。
呑気に笑ってるが分かってんのか?
もう【お試し】なんて言ってられないんだぞ。
「僕、ずっと言ってなかったんだけどさ。」
「ああ。」
「僕自身、ちょっと自信無いんだけどさ。」
「ああ。」
「多分、耀司くんが思ってるより、耀司くんが好きだよ。」
曖昧で、ズルい言い方。
それなのに思わず顔が赤くなってしまう程嬉しいし、マジでうるさい位に心臓が鳴ってしまうのは仕方ねぇだろ。
マジでズルい。
地味顔陰キャのクセに。
欲目フィルター無いと可愛くねぇのに、最高にあざとくて可愛い。
「耀司くんは僕の彼氏で居てくれるんだよね?」
だと思えば演技でもなんでもない不安そうな表情でそんなことを言い出すもんだから、
まるで本当に俺を好きになってくれたんじゃねぇかと勘違いしてしまう、期待してしまう。
康介の知らない、【ウソツキな俺】ごと愛してくれるんじゃねぇかと。
そんな筈、ないのに。
「ああ。俺を、お前の彼氏で居させて欲しい。この先も、ずっと。」
それでも俺は、恋人で居たいから。
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