ほんの少し開いただけなのに、ドアチェーンがけたたましく音が鳴る程にドア引かれる。
ドア壊れたら弁償しろよ?
ガシャガシャと音を立てて何度も何度もドアを開けようとするから、
マジでドアが壊れるんじゃねぇかと心配になるし、康介が完全に怯えてるからやめろ。
「………他人の家に何の用だ?」
精一杯の低い声を出して、ドアの向こうの相手を威嚇する。
一体誰だ………?
そしてこのタイミングの良さ。
やっぱりあのコンセント、盗聴器だったんだな。
さっき俺が外したから、焦って出てきたのか?
お粗末すぎ。
「他人の家に勝手に侵入しているのは、お前の方だろう蘭。」
怒りに満ちた、聞き覚えのある声が聞こえる。
………正直、やっぱりなと思わないこともない。
てかあのコンセント仕掛けてあったということはコイツ窃盗だけじゃなくて不法侵入までしたのかよ。
怖過ぎ。
「俺は正式に招かれた客人なんだがな。なぁ、康介。」
「う、うん………。え?てか誰?耀司くんの知り合い?」
あー………なんとなくそんな気がしてたが、やっぱ認識すらしてなかったか。
不安そうに近寄って来る康介を、咄嗟に背中に隠す。
ギチギチという音を立てて扉が引かれたからだ。
壊してでもこじ開けるつもりなんだろう。
こんなクソ狭いワンルームでそんなことしやがって、破片が飛んで康介が怪我したらどうするつもりなんだ。
「康介、康介!今助けてあげるからね!!」
「こわっ………何の話?」
ぎゅっと俺の背中に掴まりながら、康介が完全に恐怖に呑まれた声を上げる。
怖ぇよな。
ぶっちゃげここまでだと思ってなかったから俺も怖ぇ。
「なぁ、秋元………お前がどう思ってようが勝手だが、取り敢えず扉壊すの止めろ。康介が破片で怪我でもしてたらどうすんだ。」
そっとスマホの録画機能をオンにして、ボイスレコーダーの代わりにする。
万が一の時に証拠になるように。
一瞬録画開始の音が出たからマズいと思ったが、特にそこに反応はなさそうだからこのまま黙ってゴリ押すことにした。
「お前が出て行けばする必要もない!」
「声荒らげんな。近所迷惑だろ。」
多分何を言っても激昂するか、都合のいいように解釈するかのどっちかだろうから、
取り敢えず刺激するようなことは言わず、至って当たり前のことで注意を逸らす。
………まぁ、全く逸らせそうにないんだが。
「俺が出て行く出て行かないかは、俺でもお前でもなくて康介が決めることだ。話し合うから少し時間をくれ。」
「ダメだ。その間に襲うつもりだろう。」
「お前じゃねぇんだ、しねぇよ。取り敢えず外で待ってろ。」
襲うんだったらそもそもやってる………とは、流石に言わねぇけど。
多分、コイツの中ではガチで康介が脅されてるみたいな認識なんだろうなぁ………めんどくせぇ。
「ダメだ。俺が中に入る。お前が出ていけ。」
「康介が怯えてる以上それは出来ない。扉が閉まってる時点でお前が無理矢理入れば不法侵入だぞ。警察呼ばれたくないなら黙って待ってろ。」
こういう時に正論言ったら逆上する可能性が高いから良くねぇんだっけか………
とはいえなんとかドアから離したいし、康介を守りたい。
ストーカーってだけでも気持ち悪ぃのに、こんな話の通じない奴相手だとこっちか頭おかしくなる気がしてそれも怖ぇ。
「お前がどう思ってるのか知らねぇが、俺は康介を傷付けたり脅したりはしねぇ。約束する。」
威勢よく言いながら、でも俺のそもそものキッカケを知ったら康介は傷付くし嫌悪するだろうなとも思った。
そう考えれば、俺のこの言葉はウソになるのだろう。
多分、康介が俺じゃなくてアイツを選ぼうものなら、俺も康介を脅して手に入れようとしてしまう自信しかない。
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