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「………康介に手を出したら殺すぞ。」

そりゃ俺の台詞だよと言いたくなるような捨て台詞を吐いて、アイツ………秋元はドアを閉めた。
靴音が聞こえないから扉の前で待ってるんだろう。
気持ち悪ぃ。

「耀司くん………」

不安そうに、それでいて決心したような顔で俺から手を離そうとした康介を、俺は勢い良く振り返ると同時に抱き締める。
多分、俺が置いて出て行くと思ったんだろうなぁ。

「約束、破んのか?」

もしかしたら会話を聞かれてるかもしれない。
下手なことを言おうものなら今度こそ無理矢理乗り込んでくるかもしれない。
そう思うと言葉に出して確信なことは言えないから、俺はメッセージアプリに聞かれてるかもしれないから話し合わせろと送った。
とはいえ抱きしめたままだと康介は見ることが出来ないから、俺の画面を見せつつ、だけど。

「………ううん、大丈夫だよ。」

俺の頬を撫でながら、嬉しそうに康介が笑う。
もう一回だけ強く抱き締めて、俺はそっと康介から離れる。

『恋人をこんな状態で置きっ放しにする訳ないだろ。』
「康介、俺のカバン取ってくれないか?」
「うん!………うん!」
『でも、どうする?一緒に出るの難しそう。』

置きっ放しにしたままのカバンを俺に渡しながら、至極真っ当な疑問を返信する。
そうなんだよなぁ………どうするか………
多分普通に連れ立って出て行けば逆上するか、実力行使するかのどっちかだろうからな。

『警察呼ぶ?』
『それしかねぇけど、声聞かれてるから呼んでる最中に乗り込まれる可能性がある。』

警察だってそうすぐすぐには来れないだろうから、呼んだのを気付かれてドアぶち壊して乗り込まれたらアウトだ。
かといって他に案があるかといえば無いし、出るまでねばりてぇけど、
多分あまり時間かけると今度は康介に何かあったかと思って乗り込んでくるだろう。
どうする………?

「………ねぇ、僕も一緒に行っていい?」
「は?」

さっき危ねぇから無理だって言ったばかりじゃねえか。
つか声出すなよそれも危ねぇだろうが。

「お見送りくらいさせてよ。」
『見送りなら、多分大丈夫じゃないかな?』

楽観的なメッセージ。
でも確かに連れ出せるチャンスはそこしかない。
半ば俺が誘拐するみてぇな形になるが、仕方ない。

『明日、アイツ会社で騒ぐかもしれねぇぞ』
『耀司くんは?』
「あ?」

言われた意味が分からず、思わず声漏れる。
俺は別に騒いだりしねぇぞ?
騒がれる側かもしれねぇが。

『耀司くんはたとえば、ぼくが恋人って知られて嫌じゃない?』
「………願ったり叶ったりだが?」

お試しどこいった?なんてやぶ蛇なことは言わねぇ。
でもあんなにも隠したがってた康介が俺を恋人だと宣言してくれるなり、
バレて否定しないでいてくれるなりしてくれるなら、それ以上の嬉しいことあるか?
てかあれだよな。
外堀完全に埋めてしまって堂々としてても良いしな。

『じゃあ、もう行こう。荷造り、また明日でもいいし。』

昨日今日でこんなセキュリティがクソなアパートに短時間でも居させるつもりないけどな?
そんな思いを込めながら、康介の手を握る。
上手くいくかは分からないけれど、それでも俺は手を放すことだけは絶対にしない。
例え腕が折れようとも。



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