「あ、お前週末暇?」
「週末?別に予定無いと思うけど、なに?」
あの日からかれこれ三日程。
毎日康介の最寄り駅までのそう短くない道程をドライブしている。
ところでこれは俺的にはデートのつもりなんだが、コイツは気付いているのだろうか。
気付いてないだろうなぁ………
この三日間で聞き出せた恋愛遍歴によると、今まで付き合ってきた恋人は三人。
そして全員相手の浮気が原因で別れているらしい。
多分、ハナからコイツはキープ的な存在だったんだろう。
そうなるとろくなデート一つしたことないんじゃないだろうか?
仮にも恋人に週末の予定聞かれて首傾げるくらいだしな。
「なにもクソもあるか。デートするぞ。」
「ふへ?」
なんだその声。
油断しているのか何なのか、ちょいちょい出してくる間抜けな悲鳴は結構好きだったりする。
そんな声出すような奴と、付き合ったことないからな。
「で、デートって、僕と?」
「お前以外の誰とするんだよ。俺の恋人はお前だぞ。」
何を今更。
付き合ってまだ三日目ではあるが、いい加減俺の恋人だという自覚を持て。
信号待ちなのをいいことに康介の顔を盗み見すれば、何故かぎゅっと眉根を寄せて泣き出しそうな顔をしている。
外デートは嫌だったか?
「で、でもさ………」
「ああ。」
「その、俺とデートしても、楽しくないんじゃない、かな?」
不安そうな瞳が俺を見ると同時に信号が変わったので慌てて発進させながら、言いようのないムカつきがまるで吐き気のように込み上げてくる。
なんだ。
なんだ今の言い方。
あんなのまるで―――
「前の彼氏共に言われたとかか?」
俺の言葉に、康介がビクリと身体を跳ねさせた。
どうやら図星だったらしい。
なんだそれ。
なんだそれ。
多分、康介的には悪気なんて何一つ無く言ったのであろうその一言は、俺にとってこの三日間で一番腹が立った言葉だった。
「他の奴らと一緒にすんな。楽しいか楽しくないかは、俺とお前の主観だけで決めることだろうが。」
俺が楽しいかどうかなんて俺が決めるし、逆に康介が楽しいかどうかなんて康介だけが決めれることだ。
コイツの元カレ共は支配欲から自分の感情を押し付けたのかもしれないけれど、俺はそんなことしないししたくない。
疲れるんなら無理にデートしなくて良いと思うし、そもそもつまんねぇなら互いに変える努力をするべきだろ。
「仮につまんねえなら、別に考えればいいだろ。」
「………そういうもの?」
「そういうもん。とにかく週末空けとけ。そこから考えるぞ。」
無計画にも程があるし、正直そんな無計画なデートなんざしたことないから不安しかない。
だけどそもそも康介の好みなんて何一つ分からないし、同性カップルのデート自体が初めてだから、もういっそ無計画のまま開き直ってしまおう。
そっちの方が楽だ。
「………うん。ありがとう。」
照れくさそうに、康介が笑う。
この三日間だけでも、康介は意外と表情を変えることが分かった。
会社では常に陰気臭い雰囲気を固定させているが、プライベートだとこんなにも変わるのか。
社内でも見せればいいのにと思うが、それはそれでなんだかイライラするので口にはしない。
「つまんなかったら言えよ。」
「うん。耀司くんも、言ってね。」
嬉しそうに、ふわふわと康介が笑う。
性の違いはあるから比べるのも違うが、それでも今まで恋人にした女達よりも素直で可愛いとは思う。
やっぱ恋人って立ち位置にすると情が湧くんだな、うん。
「言う。約束する。」
約束、なんて。
なんて軽い言葉だろうかと思うけれど、それでも康介は純粋に喜んでくれる。
きっとその約束を破ったとことで、責めも騒ぎもしないだろう。
でもだからこそ、必ず守りたいと思ってしまう。
「じゃあ週末………土曜日と日曜日、どっち?」
「ん………土曜日にするか。」
なんとなく、本当はどっちもが良いけれど。
流石に付き合って一週間も経ってないうちに言うのは憚られる気がして片方だけを選ぶ。
更に嬉しそうに笑う笑顔を見て、運転中で良かったと心底思った。
そうじゃないと、雑に押し倒して襲ってしまってもおかしくなかったから。
「どっか行きたいところあるか?日帰り出来る距離なら多少遠くても良いぞ。」
他人の運転する車に長時間乗るのは苦痛だが、自分で長時間運転するのは苦痛じゃない。
横ではしゃがれるのは煩いから、できれば到着するまで寝ていて欲しいとは思うけどな。
あー、でも康介の声は耳馴染み良いし、起きてても邪魔にはならねぇかも。
「ううん、遠出するならゆっくり旅行の方が良いから………近場でも大丈夫?」
「ああ。どこがいい?」
そうか、日帰りは嫌か。
想像で若干楽しみにしてしまったので一瞬だけ気落ちしてしまったが、
いやいやコイツとのデートを楽しみにするってなんだよと正気に戻る。
あぶねえ。
なにがという訳じゃないがあぶねぇ。
「金曜、うん、明日までに考えておく。」
「おう。待ってる。」
それはやりたいことがいっぱいあるという意味なのか、それとも逆にやることがないからひりだしておくという意味なのか。
少しばかり気にはなったけれど、取り合えず返事だけはしておく。
いずれにしても明日になれば分かることだろう。
………多分、きっと。
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