『好みじゃねぇんだよ。』
そんな一言、狡くない?
そんな事言われたら、そうですかとしか言えなくなるじゃない。
だって好みか好みじゃないかなんて、努力したってどうせすぐにボロが出る。
諦めろをより強く言った感じでしょう?でもね………
「もっと言い方ってもんがあるのでは!?」
「マイルドにした所でさぁ、しずくちゃん諦めないじゃん。気持ち悪いくらいに。」
ケラケラと。
前を歩いていた友人はひらりとスカートをひるがえしてこちらを見ると、私の愚痴をお茶会のお菓子にするみたいに………
それはそれは楽しそうに笑った。
友人は可愛い。
パッチリとした大きなおめめ。
マスカラしかしていない、つけまつ毛要らずの長いまつ毛。
小さな輪郭に、ふっくらとキスしたくなるような唇。
「でも【好みじゃない】かぁ………そんなこと言われた事ないなぁ。」
「だろうね。ねぇ、なんでゆかりちゃんはそんなに可愛いの?」
友人は可愛い。
サラサラキラキラと痛みなんて知らないような、美しい髪の毛。
いまどき黒髪なんて重く見えてしまうのに、身につけてるヘアピンだったり小物だったりが明るい色だから全然そんな風に感じない。
背は高いけど、線が細いから威圧感はない。むしろ守らないとって思っちゃう。
「世界で一番可愛いから。」
「知ってるよー。」
ゆかりちゃんが世界で一番可愛いなんて知ってるんだ。
きっとゆかりちゃんのことを【好みじゃない】人が見たって、ゆかりちゃんのことを好きになるほどに可愛いのだから。
見た目だけじゃなくて、性格も。
「分かってないなぁ、しずくちゃん。」
「なにが?」
「しずくちゃんだって、世界で一番可愛いくなれるんだよ?」
何を言ってるんだか。
私はこんなにふわふわしてない。
可愛くなんてない。ゆかりちゃんにそんなこと言われると、嫌味にしかならない。
ゆかりちゃんなんか嫌い。嘘。好き。
そんな風に思ってると、ゆかりちゃんが立ち止まってふんわりと笑った。
「好きな人だったり、尊敬してる人に可愛いって言われてキスされたその瞬間から、自分が世界で一番可愛いんだよ?」
だからしずくちゃんも世界で一番可愛くなれるよ。
ゆかりちゃんはそう言って私にキスをしてくれたけど、言ってる意味はちっとも分からない。
だって、私にキスしてくれる男の人なんて、ゆかりちゃんだけなんだもん。
そしてそんなゆかりちゃんも、私を可愛いだなんて、けして言ってはくれないのだ。
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