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毎日のメッセージは相変わらず継続中だけれども、前よりは減った。
その分一つ一つのメッセージ量が多くなった気もするけど、それでも彼とのやり取りが楽しいことには変わりなかった。
何も他愛もない話が殆どだけど、例えば同じ景色を見ていても視点が変わればこうも捉え方が変わるのかと驚くようなことだってある。
俺は相変わらずメッセージのやり取りは苦手だけれど、それでも燎平さんとのやり取りは面白くて好きだった。

『程々にしなさいね。傷付くのは貴方よ。』

東雲からはそう言われてしまったし、それは確かにそうだと思う。
例えばどれだけ楽しくてのめり込んだとしても、幾らこの地域にパートナーシップ制度があるとしても、
あの人はノンケできっと自分がそういう対象で見られるだなんて考えもしないだろう。
………大亮くんのように。

だからこそ、今度はきっと大丈夫。
そもそも燎平さんはめちゃくちゃ好みの顔ではあるけど、なんていうんだろう………アイドル、みたいな?
兎に角恋をすること自体が畏れ多いような存在だから、流石に大亮くんみたいに嘘を吐いて傷付けてしまうこともないだろう。
………ゲイ自体が嫌とかだったらどうしよう。
それはそれで申し訳ないし、騙してしまうことになるのか?
難しい………俺が女の子だったら、ここまで悩まなくてよかったんだろうけど。

『今度一緒に遊びたいんだけど』
『ダメかな?』

悲しそうなネコのスタンプに、こんな可愛いスタンプ使うんだってちょっとだけ胸がときめく。
女子ウケかな?それとも純粋に好きなのかな?
どっちにしても燎平さんが使ってるというだけで威力がすごい。
スマホ決済が出来ないタイプの格安キャリアで良かった………出来てたら簡単に見るがまま買って最終的に支払いでひぃひぃ言ってたよ。
それにしても、遊びに………か。
本気にするべきなのか、それともお世辞だと思うべきなのか。
それで正解が変わるのに、相手の温度感が全く掴めないからメッセージは苦手なんだ。
まぁでもきっとお世辞だろう。
俺みたいな陰キャと遊んだところで、燎平さんには何の利点もない。

『良いですよ』
『暇な時間が合ったら、是非』

………本気にしてると思われないか?
でも暇な時間が合えば〜だし、合わせようとしてる訳じゃないから大丈夫だよな?
正解じゃないにしても及第点くらいではあるよな?

『ホントに!?』
『いつなら空いてる?』
『俺予定合わせるよ!』
「………え?」

思わず声が漏れる。
本気、だったのか?お世辞じゃなく?
どうしよう、本気だったことを何も考えてなかった。
思わず手帳に手を伸ばすけれど、でも燎平さんにも都合があるかもしれないと思って止めた。
本気にし過ぎるのは良くない。
ダメ、絶対。

『それは申し訳ないので、お休みが合ったらで大丈夫ですよ』

んー、俺が会いたがってるみたいになってないか?
気持ち悪いって思われないか?
もうやだ、何が正解で何が不正解か分かんない!

「人間関係難し過ぎ!」
「何騒いでるんだ、芦谷。」
「ひゃい!」

スマホを布団に向かって優しく放り投げていたら、突然声が聞こえて思わず変な声が漏れる。
恐る恐ると振り向けば、呆れたような顔をしている中性的な顔にアーモンドアイがバランス良く配置されたウルトラ美人が。
一応隣人の、相模虎太朗(さがみこたろう)くんだ。
何故一応という言い方をしたかというと、俺が住んでいるこの場所はシェアハウス、つまり一軒家に五人程で住んでいるからだ。
隣人っていうよりも何だろう、ほぼほぼ同居人って感じ。
だからこそ生活音は極限まで気を使っていたけれど、独り言が大きかったから文句を言いに来たのかも………申し訳ない………

「ご、ごめんなさい!うるさかったよね!?」
「いや?全然。お腹空いたから呼びに来たら騒いでたからビックリしただけ。どしたの?」

お腹が空いたから呼びに来たって、うちに食事当番っていう概念は無いんだけど………と思うけど仕方ない。
五人中四人が壊滅的に料理下手、つまり俺しかマトモに料理が出来る人間が居ないのだ。
朝と夜の食費は俺の分も含めて負担してもらう代わりに、俺が作ったり作り置きしたりとかしている。
昼食に関してはお休みの日だけだ。
流石に五人分の弁当はキツい。

「陽斗はいつも死んでるのかと思っちゃう位には静かだから、たまには騒いで良いよ?」
「言い方。」

心配してしまうって意味なんだろうけど、死んでるのかってなんだよ。
てか俺死んでんの?って常に思われてるのかな………ちょっと悲しい。
そんなことを思いながらスマホをポケットに入れて、虎太朗くんと一緒にキッチンへと向かう。

「ご飯作ったら直ぐ部屋帰るじゃん?そのまま静かだし朝まで出て来ないしだし。」
「バイトで疲れてるから………心配かけてごめんね?」
「そう!それだよ!」

ビシッと虎太朗くんが俺の鼻を指で突いた。
勢いがあったからちょい痛い。
なにがどうそれなのかも分からず取り敢えず鼻を摩りながら小首を傾げれば、虎太朗くんは足を止めて腕を組みうんうんと唸り始めた。

「お前さぁ、バイト入れ過ぎじゃない?」
「そう?」

そんな感覚全然無いけど。
でも孤独死希望だから、稼げる内に稼いでおかないといけないし。
でも学生である以上勉強が第一だから、ちゃんとその時間は空けている。
つまり別に言う程バイトばかりという訳ではない………筈。

「そう?じゃねぇよ。遊びに行かねぇの?」
「遊びに………」

虎太朗くんの言葉に、俺はスマホを取り出して通知画面を見た。
燎平さんからの返信が当たり前のように届いていて、予定を教えて欲しいとか、それか来月か再来月でもいいから合わせようと書かれている。
これは………流石に本気にしてる良いのでは?

「遊びに行く、かも。」
「かも?かもって何。」
「誘われてて、本気なのかどうか悩んでる。」

どういう事かと虎太朗くんがますます眉根を寄せるので、俺は掻い摘んで今までから今日までの出来事を話した。
するとなんということでしょう。
何故か虎太朗くんは天を仰ぐようなポーズを取ってウソだろ………と呟いた。

「なに」
「いや、お前そういえば童貞処女だったなと思って。」

いきなりなんだよ、失礼な。
確かに童貞処女だけど。
なんならファーストキスもまだですけどね!
それとその行動の何の関係があるって言うんだ。

「飯食ったらお前の部屋行くぞ。服漁る。あとソイツにはシフト休みの日全部送ってやれ。」

虎太朗くんからキビキビと出される指示に気圧されながらも頷く。
でも何も知らない虎太朗くんがそこまで言うのならば、きっとお世辞じゃないんだろうな。
取り敢えずご飯を食べ終わったらシフトを送ろうかと思いながら、俺は燎平さんに一つだけメッセージを送った。



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