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「あしや、くん」

漸く手に入れた彼の欠片。
どんな字を書くのだろうか。
料理上手で、優しいあしやくん。
本当はあんな他人から偶然聞けたって感じじゃなくて、あしやくん本人から教えてもらいたかったのだけれど上手く行かなかった。
聞き出せたのなんて節約中なことと料理毎日作ってることくらい。

めちゃくちゃ警戒してた。

当たり前だろう。
俺なんて、この間たまたま声をかけてきた他人程度の存在だ。
あの日だって俺結構勇気出したのに、嘘は吐かれたし、東雲と門倉からはバッチバチに牽制されるしで散々な結果に終わった。
もしかして門倉達目当てだと思われてる?

「次どうすっかなぁ………」

取り敢えず接点を絞り出さないと、学部が違うから関わりが持てない。
しかも飯食う所毎日変えてるっぽいから探すのに時間かかる………バイトとかしてねぇのかな。
バイト先分かれば同じバイトに応募して、ワンチャン同じバイトの人って形で接点持てる。
そうすればさっきの男みたいにあしやくんの事を呼んでも問題無いし、東雲達みたいに笑いながら喋ったりもできる。

今俺は多分あしやくんにとってモブだ。
話はするけど関わりがない存在。
そこをまず脱却しないと話にならないけれど、如何せん出来ることが少な過ぎる。
サークルとか入ってないのかな。
今入ってるサークル抜けてあしやくんと同じサークルに入るという手も有りだな。
いずれにしてもあしやくんの情報を集めよう。
誰に聞いた所で、東雲と門倉に付き纏う平凡って答えしか返ってこねぇ。
約立たずかよ。
そもそもあの時の食堂での様子、付き纏ってるのどっちかと言えば東雲と門倉だろ邪魔くせぇ。

「あしやくん」

もう一度、口の中でキャンディを転がすように彼の名前を呟く。
あしやって苗字っぽいけど、どっちなんだろ。
もし苗字だとしたら名前も知りたい。
んでもって呼びたい。

今までこんなにもストーカーみたいな考えしたことがなかった。
恋愛なんてゲームみたいなモノだったし、好きだなって思えば手を出せば直ぐに俺のモノになってくれたから。
でも彼に対しては違う。

知りたい、彼のことが。
何が好きで何が嫌いでどこに住んでてとかも全部。

独占したい、彼のことを。
門倉や東雲ばかり構わないで俺だけを見て欲しいし、なんなら俺だけに触れさせて欲しい。

尽くしたい、彼にだけは。
欲しいものなら何でも買ってあげたいし、望むことならなんでも叶えてやりたい。

すぐに手を出したい訳じゃない。
身体だけの男だなんて見て欲しくない。
世界中の奴が裏切ったとしても、俺だけは絶対に裏切らないと証明したい。

「兎に角まずは接点作りだ。」

友人になろう。
友人になって俺が居ないとダメな状態にして、そこからステップアップをするんだ。
振られる隙もない程に。



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