けれどもその翌日辺りから、大翔は俺にスマホを返す日が増えた。
やはり大翔にとってゆうちゃんが恋慕を抱くのは邪魔なのか?
それともゆうくんと何かあったのか?
どれもこれも口に出せない疑問ばかりで、でも俺は必死に大翔を引き留めてみたけれど、けれども大翔の気を何一つ引けなかった。
―――どうすれば良い?
焦れば焦る程絡まる思考の中で、俺はふと【大翔は無駄を嫌う】という事を思い出した。
食材や時間、そして金。
ギリギリを生きている大翔にとって、無駄は大袈裟じゃなく命取りだ。
だから俺は、ほぼ同じ手段で行くことにした。
衣食住は嫌がるのならばと、大翔専用のノートをわざわざ作ってそれで釣った。
半信半疑で受け取ったが、目に見えて成績が上がったので大翔は上機嫌で俺をゆうちゃんのままで居させてくれた。
それでも放課後は滅多に明け渡してくれないから、俺は学校に居る間だけスマホを渡して空き教室で大翔を抱いた。
終わったら返って来るそれが切なくて仕方ないけれど、所詮はセフレだから何も言えなかった。
『空き教室においで』
そう呼べば来てくれる、抱かせてくれる。
聖人は大翔にとって何の価値も無い存在でも、ゆうちゃんはまだ価値があるんだと思ってた。
でも違ったんだ。
「良かったじゃん、長谷川くん」
でも今思うと、そもそも学校で抱くべきではなかったし、自我を持った時点でゆうちゃんは大翔にとって何の価値も無かったんだ。
しかも余分な存在に目を付けられてしまったから、俺はもう取り返しのつかないことになってしまった。
「待って、待って大翔。何で?何でそれ返すの?何で呼んでくれないの?」
久しぶりに呼ばれた自分の名前。
でもそれは苗字で、下の名前ですらない。
そして突き返された俺のノート。
それだけで、俺は大翔が何をしたいか分かってしまった。
けれども認めたくない。
嫌だ。
「もう要らないから」
それはノートのことではない。
明らかに、【長谷川聖人】と【ゆうちゃん】のことだった。
嫌だ、嫌だ、嫌だ何で!
泣いてしまってはいけないと分かってはいるけれど、涙が止まらない。
大翔の表情が不快そう歪み、ヤバいと思ったけれど口からは縋る言葉ばかりが零れた。
捨てないで。
お願い。
頑張るから、チャンスをください。
「バイバイゆうちゃん。楽しかったよ。フカフカのベッドもありがとう。」
けれども大翔は俺にそう言って手を振ると、踵を返してもう二度と振り向いてはくれなかった。
やめて、おねがい、おいていかないで。
必死に願ってももう遅くて、翌日、大翔は急に【転校】してしまった。
意味が分からなくて居ないと分かってて大翔の生家に行ってももぬけの殻で、公園に行ってホームレス達に聞いて回っても誰も何も知らなかった。
ただ一つ気になったのは、そのホームレス達の中にあの【ゆうくん】は居なかったことだった。
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