【ゆうちゃん】で居ることが上手くなればなるほど、俺はゆうくんだけではなくゆうちゃんにも嫉妬した。
それでもそれさえ表に出さなければ俺は大翔を抱けたし、おかえりも言ってもらえる。
「まだアレを構っているの?」
そんなある日、当たり前な話だけど海翔さんに大翔に衣食住を提供していることがバレた。
最近は隠すことすらしなかったから。
冷たい目線で睨まれ、今までの俺だったら震え上がって謝罪して、即大翔を叩き出していただろう。
それでも俺は、大翔の傍を離れ難いと思ってしまう。
「や………大翔は、飯作ってくれるんです………」
「じゃあ君だけ食べれば良いじゃないか。アレを食べさせる必要はないよね。」
我ながらトンチンカンな言い訳は、海翔さんにバッサリと切り捨てられてしまう。
いや、でもそれってどうなんだよ。
前々から思っていたけど、海翔さんが一番大翔に対する当たりが強い。
そもそも二人の両親だって璃己ちゃんだって、海翔さんが誘導したんじゃないだろうかと思う節が度々あった。
「でも俺は、やめたくない………です」
グッと拳を握り締め、俺は海翔さんに口答えをした。
何故俺はこんなにも海翔さんが恐ろしいのだろうか。
けれども俺は、大翔から不要とされるまではゆうちゃんで居たかった。
「アイツの中で、俺の代わりはいくらでも居る。でも、アイツの代わりは居ないんです。」
そもそも俺自身が代用品だ。
大翔がゆうくんに相手にされてないから俺が作られただけであって、もしもゆうくんと大翔の距離が近くなったらお役御免になる。
その日が来るまでは、俺は大翔のゆうちゃんで居たい。
「居るだろう、いくらでも」
「居ません。俺は貴方とは違うんです。」
海翔さんにとって、大翔の代わりはいくらでも居るだろう。
望んでサンドバッグになりたいという奴だって居ると思う。
それでも、それでも俺にとっては―――
「俺にとっても、居ないよ。」
「………え?」
海翔さんは、先程変わらない冷たい表情で信じられない言葉を発した。
そんな筈はないだろう。
だって、あんな風に大翔を扱っておきながらそんな言葉、許される筈がない。
「アレの代わりなど、居ない。だから他人に認識されると困るんだ。」
俺だけでなければいけないなんて、酷く最低で傲慢なセリフ。
けれど瞳の奥に籠る熱で、海翔さんが本気で言っているのだという事だけは分かった。
何故海翔さんが大翔を居ないものとするのか………その理由は分かったけれど、その状況はとてもじゃないが無理だ。
海翔さんは、ゆうくんの存在を知らない………?
「それでも俺は止めません。大翔が不要だと言うまでは。」
なんだ、結局その程度なのか。
俺は今の今まで感じていた海翔さんに対する恐怖が飛散していくのを感じた。
海翔さんが大翔にどういう種の執着を抱いているのか知らないけれど、海翔さんは大翔のあの笑顔を知らないのだ。
それだけで、俺は初めて海翔さんに対して優越感を覚えた。
「大体、いくら俺達が認識しなくても、大翔は一人で生きていきますよ。」
大翔に執着するクセに、大翔の強さを知らないのだ。
そんな相手に、負ける筈はない。
この日俺は大翔を上機嫌で抱いた。
いつも以上に機嫌の良い俺を大翔は訝しんだが、それでも上機嫌なゆうちゃんは可愛いと褒めるから、俺はまた更に上機嫌になるのだ。
「大翔、大翔。」
「ふふっ、今日のゆうちゃんめっちゃ甘えんぼじゃん。かーわいい。」
その小さい身体に抱きつけば大翔の揶揄うような声が聞こえたけれど、喜んでいるようにも思えるから嬉しい。
誰にも負けたくない。
俺は誰よりも大翔が好きだと、俺は自信を持って思えるようになった。
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