結局うるさいまま電車に乗ったが、コウジはとても頭が良かった。
最寄り駅でもなんでもない所で電車の扉が閉まる直前に降り、念の為だと向かい側の電車へと飛び込んで一駅戻って、そこからまたいつもの電車に乗った。
普段運動しないから階段全力疾走はめっちゃキツかったけど、でもハチャメチャに楽しかった。
「町田さんはさ、最初は高城目当てだったんだよ。」
運良く座れた二人がけの座席で、コウジは唐突にそう言い出した。
恐らくさっき言ってた町田さんとコウジの関係を教えてくれるための前振りなんだろう。
俺はじっとコウジを見つめ、次の言葉を待った。
「でも高城は彼女を絶対作らなかったし、彼女として付き合いたいならごめんねって振ったんだよ。でも町田さん諦めなかったみたいで………」
少し苦笑しながら、コウジが言葉を濁す。
なるほど。
あの話の通じなさと諦めの悪さで大体想像つくが、高城にあのしつこさでまとわりついたのだろう。
そして恐らく………
「さっきの俺に対するみたいな態度を、他の子にもやっちゃった?」
「してた。特に東雲さんと門倉さんに対してはめちゃくちゃ酷かったよ。
その時にはもう二人共付き合ってたんだけど、だからこそ腹が立ったんだろうね。」
なるほどなるほど?
そもそもが同性愛に対して否定的なんだろうな、町田さんは。
まぁそれが当たり前の反応だ。
一年の時も吉塚と俺に絡んできた奴居たし。
でも正直な話、うちのクラスの連中がとても寛大なだけであって普通は誰しも嫌悪感を抱くものなんだろうなとは思ってしまう。
「でも高城達を拠り所にしてた他の子達にも口を出すようになって………ある日一番大人しかった子に、自分の取り巻き使ってイジメをするようになって」
イジメって、それ大丈夫だったのか!?
イジメられていた身としてはすごく気になってしまう。
精神的なモノも肉体的なモノも、例え短期間でもイジメられた事実は心に大きな傷を与え人格が歪む。
「でも一日も経たない内に高城が直ぐに気付いてさ、めちゃくちゃキレたんだよ。」
アイツ、吉塚が変な絡まれ方した時もキレてたもんな。
めちゃくちゃ軽そうに見せ掛けて、めっちゃ熱い奴じゃんって見直したもん。
あとコレはコウジには言ってないし内緒なんだけど、吉塚をまるで荷物みたいにひょいひょい横抱きしたり俵抱きしたりするの純粋に凄いと思っている。
吉塚も吉塚で筋肉のおかげか見た目に反して結構重いのに。
「すごい暴れっぷりで、流石に女子に手を挙げるのは良くないから止めたらさ、町田さん勘違いしちゃって………」
「んん?何を?」
コウジの本気で嫌そうな顔に、嫌な予感が止まらない。
本当は聞かない方が良いのかもしれないけれど、きっとコウジはある意味言った方が気が楽になるのだろう。
俺はそっとコウジの手を握って、先を促した。
「………俺が、町田さんを好きだって。」
次の停車駅は最寄り駅だと、車内アナウンスが告げる。
しかし俺は完全にパニクってしまってそんなアナウンス右から左だ。
まさかまさかの………そもそも付き合ってすら、なかったパターン?
『私コウジくんのこと好みじゃなかったから良いよ。付き合ってあげる。』
『意味分かんないんだけど。俺は好きになった子としか付き合わないよ。申し訳ないけど町田さんのことコレっぽっちも好きになれない。』
コウジは曖昧にしたらヤバいことになると瞬時に判断して、言い過ぎかと思いつつもバッサリとそう言って断ったらしい。
俺は当事者じゃないけど、その判断はすごく正しいと当時のコウジを褒めてあげたい。
しかしながら町田さんの中でその一連の出来事は、何故かコウジから告白されOKしたのだということになったらしく………
次の日からコウジの彼女面をするようになったのだ。
え?なにそれこわい………
最寄り駅で無事に降りつつ、俺は思わず背後が気になってしまった。
まさか尾行してるとかいうことはないよな………。
なんか今の話聞いた後だと、簡単に諦めるとは思えない。
「あの人尾行出来る繊細さ持ち合わせてないから多分大丈夫だとは思う。」
「どゆこと?」
「多分ね、誠也が気に食わないからさっきみたいにわーわー騒いで間に入ろうとする。」
それもそうかと納得。
改札に定期をかざして抜けながら、コウジはさっきの話を続きをしてくれた。
曰く、彼女面がどんどんエスカレートしてとうとう両親に合わせろもしくは自分の両親と会えと言ってきたと。
実際、町田さんの両親が押しかけて来たらしい。
うちの娘を誑かしておきながらー!と。
「えっ!それ大丈夫だったの!?てか家バレしてんの!?」
「押し掛けてきたのは前の家だけどね。中学卒業と同時に今の家に引越したんだ。
でも流石はあの人を育てただけのことはあるよな。全然話にならなくて………最終的に弁護士やら警察やらのお世話になったよ。」
相当じゃん!
てかそういうのって接近禁止?とかにはならないのだろうか………そう思いながら聞いてみたら、なったのはなったが効力は一年間しかないらしい。
ん?つまり………
「この学校に転入したのって、もしかしたら偶然じゃない?」
「あの両親なら可能性はあるよね。町田さんは偶然って思い込んでそうだけど。」
怖過ぎる………そして、俺達二人じゃどうしようもない問題な気がする。
例えば町田さんがコウジに対して飽きてるとかならまだこんなことあったんだよーって話で終わるけど、未だに執着してる訳だし………。
「一応俺の両親にはメールしてて、誠也のご両親にも直接話すつもりだから、誠也も傍に居てくれる?」
「もちろん。」
俺で役に立つことがあるのかは正直な話分からないけれど、でもこれはコウジだけの問題じゃなくて俺も考えなくてはいけない問題な気がする。
てか俺の事ストーカーって言ってたけど、町田さんの方がよっぽどストーカーじゃん。
「コウジが嫌って言っても傍に居る。」
ギュッと手を握りながら言えば、コウジはとてもとても嬉しそうに笑った。
さっきみたいな無理矢理笑ったみたいな引き攣った笑顔じゃなくて、俺の大好きな優しい笑顔。
俺は俺の心を守ってくれたこの笑顔を、絶対に守ろうと心に決めた。
→/拍手