私は可愛い。
なーんにもメイクをしなくたってパッチリとした目に、小さな顔にバランスの取れたパーツ。
今は読者モデルだけど、高校卒業したら事務所に所属してたくさんのスポンサーの専属モデルだってやるんだから。
本当は恋愛はご法度なんだけど、中学生の時に一度だけ彼氏が居たの。
格好良くて優しくて、すごく素敵な彼氏。
いろいろあって別れちゃったんだけど、でもね、高校で再会したんだよ!
転校先の高校で!しかも隣の席!
もう運命じゃない?これ!
『町田さん、早く座ったら?人に迷惑かけて楽しい?』
なのに弘慈ったら声を掛けたのにそんな素っ気ないことを言って………照れてるのかな?それとも拗ねてる?
仕方ないなぁ。
機嫌を直させてあげるのも、彼女の仕事だもんね!
「吉塚、どうせ高城の所行くんだろ?席変わって!誠也ー、ご飯食べよ!」
「んー、良いけど汚すなよ。」
そう気合いを入れてお昼休みを迎えたのに、弘慈は何故か変な地味な………見るからに陰キャみたいな男子の所にお弁当を持って行ってしまった。
あんな陰キャと仲良くしてあげるなんて、弘慈はやっぱり優しいなぁ。
でも陰キャくんには悪いけど、もう私が弘慈の彼女になったんだから独占させてもらわなきゃ。
「ねぇ、弘慈!お昼一緒に食べよう!」
「は?なんで?誠也と食うんだから邪魔しないでくれない?」
ガタガタと陰キャくんの机を動かしながら、弘慈はまたつれないことを言った。
なんでそんなに拗ねてるんだろう。
連絡してなかったから?
そんなに寂しかったの?ごめんね、弘慈。
「町田さん、今日は私達と食べよう?」
そう言って謝ろうと思ったのに、知らない子が私と弘慈の間に入って来て私を弘慈から遠ざけた。
なにこの子。
気安く触らないで欲しい可愛くないくせに。
「あのね、町田さん。町田さん知らないかもだけど、あの二人付き合ってるから。邪魔しちゃダメだよ。」
………は?意味分かんない。
二人とも男の子だよ?
付き合うって何?
付き合える訳ないじゃん。
なにそれ妄想?
知ってる、腐女子って言うんだよそういうの。
気持ち悪い。
「蒔田くん凄かったもんね、俺は誠也が好きだからーって告白してくる女の子は振るわ、余計なことしたらぶっ殺すって牽制するわ………」
「しかも見せつけるようにベタベタしてたもんね。まだ付き合ってもなかったのに。」
「えっ!?そうなの!?」
きゃあきゃあと可愛くない女の子達が集まってくる。
妄想ばっかり撒き散らす気持ち悪い子達ばっかりでつまんない。
このクラス、レベル低過ぎじゃない?
私のレベルも下がっちゃうから、可愛い子と美人な子以外とお喋りしたくないんだけど。
そういう子が東雲さん達しか居ないとか、なんなの。
あの人達は嫌い。
イジワルしてくるんだもん。
「そうだよー。だって付き合った瞬間、私達見たもん。」
「蒔田くんが俺が告白したかったのに!とか言って告白仕切り直ししたりとかちょっと面白かったよねー
馬鹿みたい。
そんな筈ないじゃん、適当なこと言わないでよ。
あんな陰キャブスを弘慈が相手にする訳ないじゃん。
しかもなんならデブじゃない?
男の子にしては確かにちょっと細いかもだけど、でも私より太いもん。
あんな子が弘慈のカノジョな訳ないじゃん。
「蒔田くんと康田くん真剣みたい。初詣の時バッタリ会って聞いたんだけど、冬休みの時にお互いのご両親と顔合わせまでしたらしいよ。」
………えっ?
弘慈のご両親って………私、一度も会ったことないよ?
私もご挨拶したいって言った時忙しいからそんな暇はないって会わせてくれなかったし、私の両親にも弘慈は会ってくれなかった。
会って欲しいって何度もお願いしたのに………。
「嘘!私達まだ高校生だよ!?」
「実際に結婚?てかパートナーシップ制度使うのは満足に稼げるようになってかららしいけどね。」
パートナーシップ制度ってなにそれ、知らない。
知らないけどきっと私から弘慈を奪う悪いものだ。
私は慌てて弘慈とあの陰キャブスの方を振り返る。
すごく楽しそうに笑いながら、中身が全く同じのお弁当を食べている。
なんで、中身が一緒なの?
そのお弁当誰が作ったの?
「………嘘だ………」
「あー、同性愛とか嫌な感じ?うちのクラス蒔田くんと康田くん合わせると同性カップル三組も居るからなぁ………」
同性愛とか気持ちが悪い。
高城くんと一緒に居ながらイチャイチャしてた東雲さんと門倉さんも気持ち悪かった。
だから高城くんに相応しくないよって警告してあげたのに、高城くんにチクられて私がこっぴどく叱られて………
でもあの時弘慈が庇ってくれたし、高城くんのこと気持ち悪そうに見てたからきっと弘慈も同性愛なんて嫌いな筈だよ。
きっとあの陰キャブスがしつこく付き纏って、弘慈は優しいから仕方なく折れてあげたんだよ。
だって弘慈は優しいから。
可哀想な弘慈。
でも彼女の私が戻って来たんだから、あの陰キャブスには退いてもらわないといけないよね。
じゃないといつまで経っても弘慈が辛いまま。
「ん!この卵焼き誠也が作ったやつ?」
「やっぱり分かる?美味しくなかったか?」
「ううん、美味しい!寧ろ俺好みの味付けだから好きだよ。」
「あー、父さん甘い方が好きだもんな。」
気持ち悪い、なにその会話。
ふわふわ笑いながらそんな気持ち悪い会話しないでよ。
弘慈の隣には女の子が似合うんだよ?
しかもただの女の子じゃなくて、私みたいに可愛い子!
あんな陰キャブスの男の子じゃない!
弘慈がすごい幸せそうな顔をして陰キャブスの唇に触れる。
やめてよ、汚い!
現在進行形で食べ物食べてるんだよ!?
なんで恋人でもなんでもない子のそんな汚い唇に触るの!?
「ん、また付いてた?」
「ううん、可愛かったから触りたかっただけ。」
にっこりと弘慈が言ったお世辞に、陰キャブスが顔を真っ赤にして俯く。
お世辞に決まってるじゃん。
鏡見たことないの?
お前みたいなのが可愛い訳ないじゃん!
可愛いって私のことなのに!!
「仲良いよねー、羨ましい。」
うるさい黙れブス。
弘慈は私の彼氏なんだから、あんなブス宛がおうとしないでよ。
「ホントだねー!ラブラブなんだね!」
そう言いたい気持ちは抑えて、話を合わせておく。
今は私の地位を築くことが大事だから。
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