「「行ってきます!」」
「はい、行ってらっしゃい。」
翌朝、当然ながら誠也と一緒に登校する。
泊まる荷物は学校が終わった後で一度誠也の家に帰ってから取りに行くことにした。
二泊三日分だから荷物になるっていうのもあるけど、お風呂上がってすぐに誠也が寝てしまったので、まだ荷物をまとめきれてなかったのも理由だった。
別に俺がまとめても良かったし、まさにしようかと思ったんだけど、
いち早く甘やかしな気配を察した誠也のお母さんに甘やかし過ぎだと釘を刺されてしまった。
「お弁当、俺の分までありがとうございます。洗って返します。」
「あら良いのよ。誠也のついでだし、荷物取りに来る時に誠也の分も一緒に頂戴。」
遅刻するから早く行ってらっしゃいという誠也のお母さんに背中を押されながら、俺達二人は誠也の家を後にする。
………誠也と朝一緒に登校だなんて、嬉し過ぎて緊張する。
「今日行くゲーセン、この間と違う所?」
「一緒でも良いよ。まあでも俺の家からだと少し遠いか。」
荷物は一旦俺の家に置く予定だ。
持って歩いても良いよと誠也は言うが、正直二泊三日分の大荷物を持って制服着た学生がゲーセンに行こうものなら間違いなく補導される。
家出少年として。
なので一度荷物を置いて、ついでに着替えてからゲーセンに行く流れとなっている。
以前行ったゲーセンは誠也の家も分からなかった事から【学校から一番近いゲーセン】で調べて出て来た所に行っただけだから、
そこに行こうとなると【俺の家から一番遠いゲーセン】に早変わりしてしまう。
別にいいけど、そこに行くまでの間にも少なくとも二軒程ゲーセンがあるからなぁ。
そもそも俺の家の近くに一軒ある。
「着替えたりすると少し遅くなるし、アレだったら俺の家の近くのゲーセンにする?」
「そうしようかなぁ………学校近くまで戻ってまた行くのもダルい………」
「じゃあ決まりだ。」
「誠也!」
ほのぼのと放課後の予定を立てていると、ここ数日ですっかり聞き覚えてしまった声が聞こえてうんざりする。
可哀想に反射的に身を竦めてしまった誠也の肩をそっと抱き寄せ、視線だけで後方を確認する。
案の定、カサハラが怒気を含んだ瞳で俺達を見ていた。
お前、顔はイケメンなんだからそんな顔したらダメじゃない?
取り巻きっぽい連中ビックリしてんじゃん。
「誠也、振り返らなくて良いよ。行こう。」
安心させるように頭を撫でてやりながら、耳元で囁く。
何れ分からせてやりたいとは思っているが、今じゃない。
少なくとも、人通りの多くて爽やかな朝にやることじゃない。
考えなくても分かることだろうに、カサハラはそんなことすら分からないらしい。
険しい声でまたしても誠也の名前を呼んだ。
こいつホントに頭良かったのか?
「なに?俺達学校行かなきゃだから忙しいんだけど。」
「お前は呼んでねぇよ!誠也、こっちおいで。」
こいつマジで馬鹿かよ。
声を荒らげたカサハラにすっかり萎縮してしまっている誠也を落ち着かせるように微笑みながら、さてどう切り抜けようかと視線を動かす。
取り巻き共は戸惑いながらも誠也に対して嫉妬に満ちた視線を寄越しながらも俺の事をチラチラと媚びるように見るあたり、同類か中学の頃のバカ共かのどちらからしい。
「あっれー?ヤッスーとマッキーじゃん!おっはよー!」
下手に動くと誠也にヘイトが溜まるだけだどうするかと考えていると、お馴染みののんびりとした声が聞こえた。
だがその声の主の最寄り駅はここじゃないハズだが?と思ったが、想像通りの声の主がカサハラ共の後ろからひょっこりと顔を覗かせた。
………何故か隣に吉塚も連れて。
「え?てかマッキー最寄り駅ここだっけ?」
「それはこっちのセリフだ。俺は誠也の家に泊まったからここに居るが、お前何で吉塚と一緒に居んの?」
「お前みたいに明確な目的あったら良かったんだけどね。マジで偶然。今日泊まった女の子の家がこの辺だったの。」
「康田と蒔田おはよう。親御さん公認だったんだな。」
一気に場がわちゃわちゃとし出したが、正直助かった。
カサハラの取り巻きはどうやらイケメンに弱いらしく、カナダ人クォーターで自他共に認めるイケメンな高城にうっとりと見蕩れ始めたし、
高城的にはそんな視線に慣れているというかもはや背景の一部でしかないので何も気にすることなく割と自然な動作で俺達をその場から連れ出してくれた。
吉塚が普通な表情で俺達に話し掛けてくれたのも、より自然な流れを出してくれていた。
まあ、そんな事しなくても高城と吉塚が現れた時点でカサハラが追いかけてくることはなかったろうけど。
あいつ多分、外面を異常に気にするタイプだ。
「………で、ヤッスーめっちゃ顔色悪いけど大丈夫なの?」
「さっきの奴らに何かされたのか?」
「あー………誠也のストーカーなんだよ。」
ちょっと違うけど、概ね合ってるだろう。
多分わざわざ話し掛けてきたのも、普段は居ないはずの俺が朝から傍に居たからだろう。
そう思っていると何故か吉塚が納得したようにポンッと手を打った。
「ああ、ならアイツか。時々スゴい殺気立った視線寄こして来る奴。」
「………えっ?俺まさか吉塚に迷惑かけてたのか!?ごめん!」
「ヨッシーどゆこと!?俺知らないけど!?」
曰く時々ゾッとするような視線を感じる事があったらしい。
最初は変な奴に絡まれているのかとも思ったのだが、次にそれは誠也と一緒に電車に乗った時に限って起きていることに気付いた………とのこと。
「最初は蒔田かよ嫉妬乙と思ったけど、蒔田だったら見るだけじゃなくて偶然装って割り込んでくるだろうから違うかとも思い直して………」
「え?何で俺ディスられた?」
俺そんな嫉妬深い男だと思われてたの?
いや確かに学校では吉塚とお話してる誠也を構いに行くけどさぁ。
昼休みに吉塚と一緒に居るのが面白くなくて割り込みに行くけどさぁ………
「ごめん、ごめんな吉塚………」
「謝らないでいいよ。康田は何にも悪くないし、蒔田を疑ったのは蒔田の自業自得。」
誠也が何も悪くないのは合ってるけど、俺の件は絶対に違うと思うぞ。
でも本当にアイツにトドメ刺さないと、これ以上誠也を怯えさせる訳にはいかない。
俺と誠也の間に、アイツが入る隙なんて何一つ無いと分からせてやらないと………
「マッキー」
「なんだ」
「顔。俺の前では良いけど、ヨッシーとヤッスーの前では止めな。」
高城から呆れたように指摘されて、自分がどういう顔をしていたのかなんとなく察しがつく。
吉塚はいいとして、誠也を怯えさせたくはない。
チラリと誠也の方を見たが、吉塚とのお喋りに夢中で俺の顔には気付いてなかった。
ホッとしたけど、ちょっと寂しい。
朝だから、人通りが多いから誠也も嫌がるかもしれないと思っていたけれど、やっぱり我慢出来なくてこっそり小指を絡ませてみる。
その瞬間、誠也が少し驚いたように俺を見上げた。
怒られるかなと思ったけど、反対に嬉しそうに微笑んでくれた。
今日も今日とて、誠也は可愛い。
そして今日は金曜日。
俺は宣言通り誠也の彼氏になるべく、全力で挑まないといけない日だ。
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