二人で落ちてるポップコーンを片付けて、映画を観て。
丁度観終わった頃には晩ご飯ができていたので、上げ膳据え膳となる結果となってしまい申し訳なかった。
泊まらせてもらってる身だし、片付けはちゃんと手伝おう。
晩ご飯はスキレットに乗った熱々のナポリタン。
昔ながらの喫茶店に憧れていたという誠也のお母さんの得意料理らしいが、半熟目玉焼きまで天辺に鎮座していてめちゃくちゃ豪華だ。
美味そう。
「「いただきます!」」
「はい、召し上がれ。」
ドキドキしながら食べたナポリタンは、お世辞じゃなく絶品だった。
パスタのパリパリになった部分もアルデンテの硬さを残した部分もどちらも捨て難いし、ケチャップが絶妙に絡んでいて美味しい。
フォークで刺して黄身を絡めて食べると、また味が違って楽しい。
一口サイズのウインナーはスキレットのおかげで熱々ジューシーだから、噛んだ瞬間パキッという音で聴覚まで刺激する。
こんな美味しいナポリタンが家庭で食べられるなんて………!
レシピ後で聞こう。
誠也のお母さんを超える腕前を持たないと、一緒に住んでくれないかもしれない!
「美味しいです、ありがとうございます。」
「あら、お世辞でも嬉しいわ。」
心からの賛辞は、お世辞として流されてしまう。
ちょっと寂しいなと思っていると、隣に座っていた誠也が袖をクイクイと引っ張ってきた。
え?可愛い、何、可愛い
そう思いながら隣を見れば困った顔の誠也が、二枚程の輪切りのピーマンだけを残したスキレットをツンツンとフォークで刺してアピールしていた。
「くれるの?」
「うん。」
流石にあーんはできないから、飲み物を取りに誠也のお母さんが台所に行った隙に自分のスキレットに移す。
ホッとした様子の誠也に頑張ったねと褒めてあげて、スキレットの余熱で固くなっていてポロポロになっていた卵と一緒に口に入れる。
うん、マジで美味い。
「「ご馳走様でした」」
「お粗末様でした。あら、誠也今日はピーマン全部食べられたのね。」
お母さんの言葉に誠也はうん!と元気良く返事したが、身体を一瞬反応させたのでバレバレである。
じとりとお母さんから少し厳しめな視線を浴びせられたが、取り敢えず苦笑で誤魔化しておいた。
なんの誤魔化しにもならないだろうけど、多分敢えて誤魔化されてくれるだろう。
「………もう。二人とも、食休みしたらお風呂入りなさいね。明日も学校でしょう?」
「あ、片付け手伝います!」
案の定誤魔化されてくれた誠也のお母さんはそういってくれたが、のんびり食休みとはいかない。
しかしながら立ち上がろうとした俺の肩をぐっと押して、誠也のお母さんはにっこりと笑った。
「普段は一人で家事して疲れてるでしょう?うちに居る時くらい、ゆっくりしなさい。」
確かに家事は一人でしているが所詮一人分だし、部屋数だって一般的な3LDKマンションだから
、二階建て一軒家のここに比べたら少ないし、誠也のお母さんだって一人で家事してるようなもんだろう………
「なら今日はゆっくりして、また泊まりに来た時はお手伝いお願いね。」
不満そうな顔が表に出てしまったらしい。
誠也のお母さんは苦笑しながらそう言うと、俺の頭を撫でた。
完全に子供扱いである。
まぁ確かに子供だけどなぁ………と思っていると、左腕に重みが。
「誠也?どうした?」
コアラみたいで可愛いが、誠也の顔が不満顔なのが気になる。
なにかしてしまったのだろうか。
と言うか、誠也のお母さんがガッツリ見てるけど誠也的には大丈夫なのか?
「………コウジ、部屋帰ろ。母さんばっかりじゃん………」
「あらあら」
「ん"ん"!誠也、部屋で食休みしようか!」
なんだこれ………なんだこれ可愛いの暴力か!?
ぺったりと俺の腕に抱きつきながら言ったセリフは誰がどう聞いても嫉妬でしかなくて。
これは自惚れる。
MAXで自惚れる自信しかない俺。
身の程なんて知るかクソが。
俺が誠也の恋人(予定)じゃいボケェ!
俺の腕にしがみついたままの誠也を連れて誠也の部屋へと戻る。
本当は誠也のお父さんが帰ってくるまではリビングに居てご挨拶しようかと思ってたけど、この誠也はズルい。
可愛過ぎて今から甘やかし倒したくなる。
「誠也、ちょっとだけ腕離して。」
部屋に入ってすぐそう言った俺に誠也は不満そうに唇を尖らせるも、ゆっくりと腕を離してくれた。
尖った唇にキスしてべちゃべちゃにしてやりたい衝動を何とか堪えながら、俺は靴下を脱いで誠也のベッドに乗る。
「おいで。」
怪訝そうな顔を浮かべる誠也に、俺は上半身だけベットヘッドに寄りかからせた状態になって、広げた足の間を指す。
俺が何を言いたいのか分かったらしい誠也は、嬉しそうな顔をしながらベッドの上に乗って俺の胸板に頭を預けた。
うん、靴下は脱ごうね。
俺に寄りかかってご満悦な誠也の膝裏に両腕を差し込んで、強制的に膝を立てさせて体操座りのようなポーズにさせる。
流石に嫌がるかなと思ったけど、ご機嫌な表情は変わりない。
抱っこされてる気分になるんだろうか。
可愛いなと思いながら膝裏から腕を抜き、そのまま手を伸ばして靴下を脱がせてやる。
「コウジ」
「ん?どうした?」
靴下を一纏めにして、床に放り投げる。
俺の分は持って帰って明日家で洗うとして、誠也の分はお風呂頂く時に持って行っておこう。
それにしても自分のテリトリー居るからか甘えんぼ度が右肩上がりな誠也は可愛いな。
このまま甘えんぼ度が限界突破してくれないかな。
「あのさ、コウジはなんで俺に構ってくれるんだ?」
「好きだからだよ。甘やかしたくてたまらない。」
誠也の髪が好きだ。
別にサラサラって感じって訳じゃないけど、頭の形が手に馴染む。
堪らず旋毛にキスを落とせば、むず痒そうに身を捩った。
「十分甘やかされてるのに?」
「もっとだよ。もっといっぱい甘やかしたい。」
足りない。
足りる訳がない。
俺が居ないとダメになって欲しいし、そうじゃなくても俺の甘やかし方じゃないと満足できないようになって欲しい。
他の誰でもない。
一番とかそんなんじゃなくて、誠也の唯一無二になりたい。
「誠也がダメになっちゃっても、俺は誠也だけを甘やかしたい。」
誠也の唇を撫でながらそう言えば、誠也は困ったように視線を泳がせた。
けれども目の縁は赤く染っていて、ただ困っている訳ではないことが見て取れる。
別にね、誠也。
俺は今はまだ【カサハラに比べてマシ】程度でも構わないよ。
そうやって懐に入って、誠也が何れ俺でなくちゃダメになってくれればそれでいい。
「好きだよ、誠也。これから先何があっても、それだけは信じて。」
だからあの男にはこれ以上近寄らないで。
その言葉は飲み込んで、俺は誠也に友達じゃないキスをした。
自分からまだ友達だと宣言しておいてと呆れられるかと思ったけど、誠也は寧ろ嬉しそうで………もしかして………
「キス、してもよかった?」
「うん、して欲しかった」
可愛い。
貪りつきたい衝動だけはなんとか抑えて、誠也の唇にわざとリップ音を立てながら軽いキスを繰り返す。
なんとなくだけど、誠也はこういうのが好きだと思うから。
誠也をバックハグしながらのキスは正直しにくいけれど、誠也が嬉しそうに笑ってくれるから。
俺達は誠也のお父さんが帰って来て呼ばれるまで、何度も何度もキスをした。
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