3-2

「康田さぁ、蒔田とヤったの?」
「はぁ!?なっ!?」

色々あった火曜日の夜。
俺はあの後無事に家へと帰り着き、名残惜しそうに手を離すコウジのほっぺにキスをして家に入った。
いや、唇に自分からは無理。
そして来る水曜日、俺はドキドキと色んな感情に胸を高鳴らせながら登校したのだが、コウジの様子は全然変わった風でもなくて。
やっぱりからかわれてたのかと落ち込んでいた昼休み。
突然一緒に昼飯を食べていた吉塚が爆弾を透過してきた。
ヤったって、ナニを!?

「だって蒔田が異常に機嫌が良いし、いつも以上に康田と距離近いし。」

吉塚の言葉に、俺は首を傾げる。
いつも以上、とは?
寧ろ俺はいつもと変わらないと落ち込んでいたのだが?
どこがどう近かったのか必死に思い返してみるも、思い出せない。
うんうんと唸る俺に、吉塚はうんざりとした顔で溜息を吐いた。

「で?ヤったの?」
「ばっ!そもそも付き合ってないし!」
「はいはい、そういうの良いから。」

吉塚は何故か信じないが、俺は断固としてまだ付き合ってないと主張する。
仮に付き合うとしたら、今週の金曜日からだ。
だってコウジがそう言ったんだし………。

「とーもやっ!飯食った?」
「コウジ。」

噂をすれば何とやら、学食を食いに行ってたコウジが戻って来たので体を少しズラしてスペースを空ける。
狭い椅子を半分しか空けられないけれど、コウジはそうやって座るのが好きらしいし、俺も落ち着く。

「もう少しで食べ終わるから待ってて。」
「良いよ。よく噛んでゆっくり食べな。」

肩に手を回しながら俺の頭を撫でてくる。
ちょっと食べにくいけど、嫌じゃないから放っておいてコウジの肩に頭を寄せた。
それにしても、もう少しこう、何かアクション的なのがあっても良いんじゃないだろうか。
弁当に入ってたブラックペッパーのきいたチキンを頬張りながら、チラリと横目でコウジの顔を見る。
コウジの事ずっと学年で三番目か四番目位の、どっちかと言えば雰囲気が強いタイプのイケメンだと思ってたけど………

「ん?どした?」
「いや?コウジの顔、好きだなって思って。」

キリッとした感じの目とか、形のいい唇とか、わりと通ってる鼻筋とか。
パーツ一つ一つのバランスも良くて、格好良いと思う。
うちのクラスで一番イケメンなの誰かって言われたら、真っ先にコウジの名前を挙げても良いんじゃなかろうか。

「は?えっ………」
「もー!俺の弁当に砂糖入れるの止めてー!」

しみじみと声に出して言えば、コウジが顔を真っ赤にして狼狽えだし、何故か吉塚がキレた。
いや誰も砂糖なんて入れてないけど。
え?もしかして吉塚イジメられてんの?

「ヨッシー!ヨッシーおいで!」
「吉塚くん!ウチらとご飯食べよう!」

そう思っていたらうちのクラスのチャラ男とその取り巻きの女子達が焦ったように吉塚を呼んで、
何故か吉塚も半泣きになりながら食べかけの弁当を持ってチャラ男達の方へと向かった。
そういえばあんなイケメン居たな。
吉塚、あのチャラ男苦手そうだけど………仲良いのか?

「誠也!とーもーや!」
「えっ、何?」
「誠也は俺の顔好きなの!?」

吉塚を心配していると、コウジが顔を真っ赤にしながら何だか当たり前な事を聞いてくる。
目がギラギラしてて怖いが、好きか嫌いかで言えばダントツ好きなので頷く。
なんなら声も性格も匂いも好きだ。
流石にそれは変態臭いから言わないけど。

「俺も誠也の顔好きだよ!」
「はいはい。食べにくいから動くな。」

そんな見え透いたお世辞は結構です。
あまり得意ではないアスパラを口に放り込んで、必死に咀嚼してお茶で流す。
苦味があるとかそういう訳じゃないけど、得意じゃない。
あと一本弁当箱に入っているので、俺は意を決して隣で可愛いを連呼しているうるさいコウジの口に放り込んだ。

「ん、美味い。」
「そうか?」
「誠也はアスパラ嫌い?」
「嫌いじゃない。得意じゃないだけ。」
「それは嫌いって言うんだよ」

ケラケラとコウジは笑うが、まるで分かっていない。
俺はアスパラが嫌いな訳じゃないんだ。
ただ得意じゃないだけ。

「そういえばお前今日何食ったの?戻るの早かったけど。」
「うどん。早く誠也に会いたかったから。」

俺の口の端についていたソースを親指で拭いながら、コウジはそう言って微笑んだ。
明らかに熱の篭った言い方に、ドキドキするけど知らないフリをする。
だって、意識し過ぎて馬鹿みたいじゃないか。

「あ、ソースも美味いな。」
「行儀悪いなぁ。ティッシュで拭けよ。」

親指で拭ったソースを、コウジは舌で舐めとった。
そもそも口につけてた俺が言うことではないが、行儀悪過ぎではないか?

「そういう問題じゃないだろう!」
「ヨッシー落ち着いて!」
「吉塚くん!ほら、お茶飲もうお茶!」

吉塚とチャラ男くん達が騒がしい。
やはり仲良いんだろうかと思いつつ、俺は弁当の最後の一口に舌鼓を打った。



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