「初めまして、大東洸希(ダイトウコウキ)です。」
僕はその子が教室に入ってきた瞬間、びっくりしておおきな声が出そうになった。
がんばってガマンしたけど。
だって、その子のお顔がこーきくんそっくりで、しかもお名前もこーきくんと同じだったから、こーきくんが僕のところに来たんだと思った。
昨日僕が可哀想なんていったから、こーきくん怒ったんだ。
どうしよう………。
しかもこーきくんそっくりなこーきくんは、僕の隣の席に座った。
どうしよう。
僕は怖くてドキドキしたけれど、授業はちゃんとしないとまたノート書けなくなっちゃう。
祐希くんが見せてくれるけど、いつまでも祐希くんにメイワクかけてばかりじゃダメだ。
でも僕がやっと書けた時には、もう黒板はずっとずっと先の話を書いてるから、ちっとも追い付かない。
どうしよう、どうしよう………。
「ねぇ、須藤くん、だよね?」
「は、はい!こんにちは!」
ぐちゃぐちゃのノートを見ながらどうしようってなってると、こーきくんにそっくりなこーきくんから話しかけられた。
誰かに話しかけられるのは、高校生になったばかりの時だけだった。
僕がちゃんとお答えできないから、みんな嫌になって話しかけてくれなくなる。
だから僕も、話しかけちゃダメなんだってわかった。
「ふふっ。はい、こんにちは。ね、今の先生黒板消すの早かったね。須藤くんはちゃんとノート書けた?」
「あの、あの………」
どうしよう、どうしよう。
ちゃんとできてないと怒られちゃうからできてないよといいたくない。
でもウソをつくのは悪いことだから、できてないっていわなくちゃいけない。
「大東くん、そんなのに構ってたら頭おかしくなるよー!」
「隣の席になったからって、お世話しなくて良いのに!」
クラスの子達が笑いながらこーきくんとそっくりなこーきくんにそういったから、僕は恥ずかしくなって下を向いた。
そうだ。
僕がちゃんとしてないから、みんなにメイワクかけちゃうんだ………。
「なんでそんなこと言えるの?普通に人間性疑うんだが。」
「えっ………」
こーきくんにそっくりなこーきくんがいった言葉に、クラスの子達はびっくりした顔をした。
どういう意味かはわからなかったけど、怖いことをいってるんだろうというのはなんとなくわかった。
「別に自分と違う存在を否定するのは勝手だが、いずれ社会に出て爪弾きにされるのはお前らだぞ。」
僕の手をぎゅっと握って、こーきくんにそっくりなこーきくんはクラスの子達を睨みつける。
そんなことしたら、こーきくんもクラスの子達から怒られちゃうのに。
「な、なにそれ………頭おかしいんじゃない?そんなのに好んで関わるとか………」
「他人のことを蔑むことしか考えてない奴らと関わるより、一つ一つを諦めないで一生懸命やってる子と関わった方がよっぽど楽しいよ。」
こーきくんそっくりなこーきくんがそう言えば、なんでかみんなすごく痛そうな顔をしている。
どうしたんだろう。
わからなくて首をかしげれば、こーきくんにそっくりなこーきくんが僕をよしよししてくれた。
はじめてされたよしよしはとってもうれしかったけど、でも僕はこーきくんだったらよかったのにと思った。
こーきくんは可哀想だし、僕のことをきっと嫌っているけれど、でも僕はこーきくんのことが好きなんだ。
祐希くんと、同じくらい大好きなんだ。
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