花盗人に罪は無し

子供の笑う声が聞こえる。
穏やかな日差しの中で、色鮮やかに咲き誇る季節の花々を眺めながらガゼボで茶を嗜み菓子に舌鼓を打つ。
なんて贅沢な一時だろうか。
なんて幸せな、一時だろうか。

「おかあさま。」
「アメリア、どうした?」

とてとてと小さな足音を立てて少年が駆け寄って来る。
あの日、あの場所での行為で俺が孕んだ子供。
愛しい我が子。
けれども俺は、彼の顔を一度たりとも見た事はない。

「あげます。」
「ありがとう。何かな?」

膝の上に乗せられた【何か】をそっと触れる。
小さくて細い………花だろうか?
アメリアが小さな掌を使って探るのを手伝ってくれる。
優しい子だ。
どうか、このままの優しさを持って欲しい。

「お花?」
「そう。おかあさまみたいなおはな。」

俺みたいな花とは一体?
そう思うが、きっと一生懸命選んでくれたんだろうと思うと愛しさが募る。
けれども心の中にある虚しさは、いつになっても消えることがない。

「シルファ、アメリア。」
「おとうさま、おかえりなさい!」

聞こえた声に、自然と緊張が走る。
嬉しそうに駆け寄る我が子を引き止めたくなる程の嫌悪。
それでも俺は、それをグッと耐える。
これ以上、何も奪われたくはないから………

「お帰りなさいませ、ラエル様」

声のする方を振り返る。
じゃらりと、鎖の摺れる耳障りな音がガゼボに響いた。



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