3-2

「あいよー、お届け物だ。」
「またぁ?律義すぎるんだが………」

私に婚約者ができてもう6年近く経つが、何故か婚約者さんは服やら宝石やらと贈ってくれている。
世の中必要最低限にしか贈り物をしない男性だっているのに、なんとも律儀なものだ。
とは言え、服も宝石も狭いこの部屋じゃ荷物になるばかりだし、売り払って資金源にしようにもオンリーワンだから足がついてしまう。

「あ、これあの子好きそう。持っていきなよ。」

今日の贈り物は宝石だ。
ブローチや指輪に加工された宝石は、一応夜会などの際に身につけている。
わざわざエスコートしに迎えに来てくれるのだから、当然だろう。
こっちだってそれくらいの義理は果たす。
でもなんの為に贈られてるのか分からない加工されてない宝石については、時折見繕ってチャッキーに渡している。
私達は、諦めていないのだ。

「趣味悪ぃし品がねぇな。」

私もチャッキーも、粒が大きいだけの宝石はあまり好きではない。
でも世間一般的には魅力的らしくって、ついこの間実家から送られてきたメイドは特にこういう宝石を好む。
性格が悪く、何を勘違いしているのか彼女は私よりも自分の方が偉く、なんなら私と成り代われると思っているフシもある面白い女の子だ。
背格好と声が若干似てるのが勘違いを助長させているのかもしれない。
顔は全然に似てないのにどうするつもりだ?
わざわざ平々凡々な顔に整形するんか?お?

まあ兎に角、私になりたいと言うならばなってもらおうじゃないか。

という訳で、チャッキーには堂々と口説いてもらうことにした。
メイドと執事との恋愛を邪魔する、極悪令嬢という【設定】により信ぴょう性を持たせる為に。

「進捗どうですかー?」
「バッチリ過ぎて吐きそう。」

ニヤニヤと笑いながら、チャッキーは品のない大きいだけの宝石を摘み上げた。
バッチリなのは知ってる。
何故かあのメイド自身が私に自信満々に報告してくるからね。
顔分かんないけど声と言い方のイヤらしさでアイツだってすぐ分かる特技を身に付けてしまった。

「さて、お前はもうすぐ学園へと入学になるんだが………」
「嫌です!」
「却下です。でだ、ここで残念なお知らせです。」

面倒な学園に入学しなければいけないというイベント以上に残念なお知らせはない筈なのに、一体なんだというのだろうか?
嫌な予感に、思わず眉根が寄ってしまった。

「お前の婚約者殿が騎士科の講師として三年間赴任するらしい。」
「なんで」

なんで。
よく知らないけど、あの人は確か騎士団でわりかし重要な位置に居たような気がする。
三年も講師として学園でのんびりしてて良い筈がない。
騎士団一本で頑張れよ。

「王族が学園に居る時は、護衛も兼ねて騎士団から誰かしら送られてくるんだと。
で、今年からの三年間はアーノルドだ。
今ただでさえ第二王子が二学年として居るのに、今年は第三王子も入学してくるからな。」

ほーん。
私は第三王子と同級生になるのか。
なんてどうでもいい情報だと欠伸を一つ。
しかしチャッキー的にはどうでもよくない話だったらしく、思いっきりチョップされてしまった。
………痛い。

「おバカなお前の、あるのか無いのかよく分からん脳みそでも分かるように説明してやるとだな………」
「Oui」
「死ぬとしたら今学年中だ。どう長く見積ってもな。」

それこそなんで、と言いたくなったが、簡単に考えればそうなるかと口を噤む。
三年間、チャッキーは私について学園に来るからこの屋敷から離れないといけない。
そうなるとあのメイドが要らんことチャッキー以外に興味を持ってしまう可能性が出てきてしまう。
しかも婚約者の人が講師として学園に赴任するということは、ヘタに動くことも出来なくなってしまうということだ。
私はあの人を認識できてないけれど、当然あの人は私を認識している。
完全に姿を見せないのは逆に不自然となってしまうし、だからといって慎重に動きすぎてもダメだ。
卒業したら私はあの人と結婚して、あの人が用意するらしい家に入らなければいけない。
絶対ヤダ。
私は赤い屋根の大きなお家に住むんだい。

「………どうしたらいい?」
「噂によるとお前と同じ今学年入学の生徒は第三王子だけではなく、とある庶民の女も入学するらしい。賭けるとしたらソイツだな。」
「なんで?」

ちょっと言ってる意味がわかんない。
なんでその庶民の女の子がキーパーソンみたいな言い方になるの?
そう言えば、チャッキーは呆れたような顔をしてもう一度私の頭にチョップをした。

「世の中の人間が、俺やお前みたいに金も権力も興味無い奴ばかりだと思ったら大間違いだ。」



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