俺にはもう一年半も付き合っている恋人が居る。
絶世の美女………とかではない。
今までは見栄を大いに含んで美人でプライド高い女とばかり付き合っていたが、今付き合ってる奴はその真反対。
地味で仕事も遅くて鈍臭い、冴えない男。
………が、可愛い。
俺的には世界一可愛い。
贔屓の引き倒し、痘痕も笑窪。
なんとでも。
堂々と恋人の座に居座れるまでになかなか時間が掛かったが、だからこそ、俺はもう一年以上この有難みを噛み締めることが出来てる。
「耀司ってさ、最近結構角取れたよね?」
「あ?」
退社時間になったが、俺の恋人………康介は定時退社出来ることなんてそうそうないので、
タイムカード切るだけ切って席に戻ってスマホをいじる俺に、同じくタイムカードを切った桶口が話し掛けてきた。
タイムカード切ったんなら帰れよ、お前。
康介と付き合う前に付き合っていた女だが、俺的には人生一番の失敗だと思ってる。
評判通りにクソみたいな女だったしな。
「んだよ、いきなり。」
「アンタ最近営業先の評判うなぎ登りよ。アンタだけじゃなくて、秋元も。」
一年以上経っても気に食わねぇ名前が聞こえて、思わず眉根が寄る。
康介から認識されたからって、調子に乗って康介の視界に映ろうとする根性が気に食わねぇ。
元ストーカーのクセに、黙って隅に引っ込んでろ。
「ねぇ、藤代ってそんなにイイの?私も相手してもらおっかなぁ。」
「ふざけんな。お前に康介が靡くことは絶対無いが、お前そうなると康介のこと無理矢理犯すだろ。ぶっ飛ばすぞ。」
「私の事なんだと思ってるのよ。ぶっ飛ばすはこっちの台詞よクズ。」
康介も男だし、見た目が悪くならない程度に鍛えてるから桶口に襲われた所で返り討ちくらいには出来るだろうが、卑怯な手も使うからな、コイツ。
危なくて康介に近寄らせる訳にもいかない。
「おっ、蘭!とうとう浮気か?」
「違ぇよ死ね。近寄んな。」
これまたタイムカード切ったクセに馴れ馴れしく近寄って来る銀山を追い返す。
そりゃあ康介と本当に付き合えるようになるまでの一連の騒動で利用はさせてもらったが?
でももう今は嫌い。
とっとと帰れ。
「最近俺に対して当たり強くないか?反抗期?」
「藤代ママから甘やかされてて調子乗ってんじゃないの?クソガキ。」
「黙れ黙れ。てかお前らマジでとっとと帰れよ。」
机に突っ伏して、銀山の存在を意識から消す。
反抗期なんざとっくに過ぎてるし、康介はママじゃない。
てか俺が銀山気に食わねぇのは、そんな理由じゃない。
ずっと気になってた【康介の好きな人】。
経緯は省くがつい先日、それが銀山だったと発覚した。
良いもん。
今は俺が康介の好きな人だし良いもん。
とは思うが、こんなお喋りくそ野郎と比べられたことがあるんじゃないかという事実がとてもとても腹が立つ。
俺のが良い男だもんなー!!!
「耀司くんごめん!遅くなったね!」
「あら。ほら、ママのおむかえよ。」
「よかったでちゅねー。」
「うるせぇよお前ら!康介、康介ぇ!」
「はいはい。ごめんね、待ったね。」
タイミングが良いのか悪いのか………康介が慌てた様子で転がり込んできた。
今日はいつもより早いなと思えば嬉しいが、銀山が居る時に来ないで欲しかった。
取り敢えず銀山よりも俺を見て欲しいので腕を伸ばせば、康介は素直に俺の腕の中に来てくれて頭を撫でてくれる。
「「バブちゃんじゃん。」」
銀山と桶口の呆れ声が聞こえたが、無視だ無視。
ぐりぐりと康介の胸板に頭を擦り付けて、腰をぐっと引き寄せる。
毎日毎日慣らしてたら、この位のスキンシップは嫌がらなくなった。
まあ、人が少ないことが前提だけど。
「お家帰ろうか。じゃあ、お疲れさまでした。」
「おう。じゃあな。」
康介に促されるままに立ち上がり、一応挨拶位はしてやる。
園児になったとかいう言葉が聞こえたが、それは無視してやるからありがたく思えよ。
明日には痛い目見せてやる。
「あ、耀司くん。」
「ん?」
「帰りスーパー寄ろうよ。今日は豪華に残り物のお鍋です。」
「つまり明日の朝と弁当の分が無い、と。良いぜ。」
家事や料理は当たり前のように協力しながらやっている………とはいえ、料理に関しては康介の割合が少し高くなってる。
一人暮らしの時は電車移動と距離の遠さで疲れてしなかっただけというだけあって、元々そんなに自炊することは苦じゃなかったらしい。
わりと率先的に作ってくれるし、俺よりも美味いからつい甘えてしまう。
弁当まで作ってくれるし。
康介的にはガソリン代代わりだと笑うが、ガソリン代より高いぞこれ絶対。
「明日のお弁当何が良い?」
「ハンバーグ。」
「うん。今日のお弁当にも入ってたから別のにしようね。」
手を繋ぎながら、駐車場に向かう。
一年半前もそうして歩いたけれど、あの時とは気持ちも立場も全然違う。
あの時は手放すつもりでいたけど、今はもう無理だ。
絶対離さない、離せない。
だってもう、俺はそれを声高らかに宣言して良い権利を持っているのだから。
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