外泊したってだけでも心配だったのに、今日だって遅いから心配で心配で、
俺はずっとアパートの出入りが良く見える近くのコインパーキングで、いつものように彼の部屋の見守っていた。
でももしかしたらすれ違うこともあるかもしれないと、部屋の中に仕掛けておいた盗聴器の音声にも注視する。
それでも何も聞こえない。
帰って来てないんだろう。
もう日も落ちてるのに、どうしたんだろう?
もしかして、なにか危険なことに巻き込まれてるのか?
だとしたら大変だ。
ああ、やっぱり隙をみてGPSも付けておくべきだったか。
自分の詰めの甘さに思わず歯噛みしていると、ここ最近、見慣れたくないのに見慣れてしまった車がアパートの駐車場に停まった。
―――また、あの車。
愛しい人に近付く、不埒な輩。
今日こそは顔を見てやろう。
そしてストーカー行為は止めろと注意してやろうと思って睨みつけるように車に視線をやり………
「は?」
思わず、声が出た。
運転席から出て、当たり前のように助手席の彼をエスコートする男。
それは俺の同期で、俺と同じ部署に働く男………蘭だった。
どうして?
どうして蘭が彼と一緒に居る?
そりゃあ俺と蘭が同期ということは、彼も蘭と同期だということではある。
でもあの二人は、俺以上に接点はない。
だというのに、二人はじゃれ合うように手を繋ぎ、腕を組みながら仲良さそうに彼の部屋へと入って行った。
一体どういうことだ?
百歩譲って二人が友人だとして、でも蘭みたいな奴、彼には相応しくない!
『ただいまー!』
『お邪魔しまーす、と。康介、手ぇ洗わせて。』
『良いよ。僕も洗う。』
仲良さそうな声が聞こえて、胸が張り裂けそうになる。
なんで、どうして?
楽しそうな笑い声が響き、そこは俺がいる筈だったのにと乗り込みたくなる。
『いっつも思うんだけど、耀司くんの家にソープディスペンサー、使いやすかった。』
『だろ?見た目に一目惚れして買ったわりには使いやすい。』
なんだその会話………もしかして外泊先って蘭の家なのか?
あんな男の家で、二人っきりで過ごしてたのか?
なんて不埒な。
まさか、汚されてしまったのか?
そんな………俺の、俺だけの康介が!
『お鍋の味付け拘りある?辛いの嫌いだから辛いのにはしないけど、それ以外である?』
『ん?辛くなきゃ平気。荷物、適当に詰めていいんだろ?』
『うん。僕も適当に作ってるから、耀司くんチョイスでよろしく。』
まるで恋人のような会話。
どうして?
君の恋人は俺の筈だろう?
どうして蘭なんかとそんな会話をしているんだ?
どうして蘭なんかに手料理を作っているんだ?
恋人の俺だって、君の手料理を食べたことないのに………!
「………俺に営業成績で負けてるクセに………」
なんで当たり前のように康介の隣に居るんだ。
彼の傍は俺のモノなのに。
俺以下の分際で、なに俺から奪おうとしているんだ。
「アイツ本当にムカつく………」
一回その鼻っ面折ってやんないと、分かんないのかなぁ………
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