高校生の頃、好きな奴が居た。
自己肯定感が低くて少し暗くて、でも笑った時はすごく朗らかに笑ってくれて。
見た目は特に印象深いところがある訳じゃなくて、どっちかといえば街中に紛れられたら分からなくなるような平凡な顔立ち。
でも友人達と笑ったりとか、授業中に見せる真剣な顔とか………そのどれもが俺を掴んで離さなくなったのはいつからか。
これが女子ならば俺は何も悩まなかった。
でもアイツは男子で、しかもさっきも言ったみたいに殊更美人だとか可愛いとかじゃなくて、本当に普通の男子高校生。
ありえないと思った。
誰かに相談できる筈もなく、それでも自分なり考えた。
俺はゲイなのか?
でも性的嗜好はどう考えても女で、彼女だって居たし童貞じゃないし、そもそもオナニーする時も今まで普通に女で抜いてた。
AV見る時も男優を見る訳でもないし、じゃあ試しにとアイツじゃないクラスメイトで妄想してみたけど、当たり前な話全く勃たなかった。
じゃあ、アイツなら………
試しに体育の授業の時に盗み見た素肌を想像したけど、まずその時点であっさりと勃った。
それでもと一縷の望みをかけてアイツとヤる妄想したら、今までにないくらいに気持ちが良かった。
賢者タイムがヤバいとぐったりしながらも、俺はもう認めざるを得なかった。
アイツが、芦谷陽斗が好きだ。
でも認めたからといってどうなるよ。
俺は陽斗の友人だぞ?
友人に対してこんな、ガチめの下心に恋心とか裏切り以外の何者でもないだろう………。
そうは思うも認めた以上、止まらないし止められない。
『大亮くん。』
アイツの俺を呼ぶ声が好きだ。
アイツが俺に向かって歩いてくれる時、抱き締めたくなるくらいに嬉しくなる。
アイツに俺以外の誰かが触っていると、気が狂いそうになるくらいには好きだった。
アイツにとっての俺なんてただの友人の一人でしかないことは分かっている。
それでも俺は陽斗に対して恋心を募らせていったし、目に見えて傍に居ることに対して固執していった。
俺がこの気持ちを言わなければ、陽斗の友人としてずっと傍にいられる筈だ。
そう信じて俺は友人の面を被って傍に居つつ、夜毎陽斗を頭の中で犯した。
それが変わったのは、三年生の頃。
受験シーズン真っ只中で、アイツは勉強時間もバイト時間も急激に増やし始めた。
希望の大学にも受かりたいし、一人暮らしもしたいからとのことだったけれども、
その時間の使い方は明らかに異常で俺は心配になって何度も声をかけた。
けれどもいつだって返ってくる答えは同じで、あくまでも友人でしかない俺はそこまで強く言うこともできなかった。
陽斗の傍に居れないというのは、俺にとって思った以上に負担だった。
成績の良い陽斗に相応しくなれるようにと必死に勉強は頑張っていたけれど、
もしもこのまま傍に居れなくて挙句の果てに遠方の大学に行かれたらどうしよう。
何故か志望校を教えてはくれなくて、だからこそ卒業後にも会えるかどうかすら分からない事に今更ながらに気付く。
告白してもしなくても傍に居られないならばいっそ、告白してしまおうか。
奇跡が起きたら俺は恋人に昇格できる、でも大半の確率で、俺は二度と彼の傍に居られなくなるだろう。
でもどうせ傍に居られないのならば、俺の気持ちをスッパリ振って欲しい。
卒業式の日に、告白してしまおう。
でもできれば奇跡が起きて欲しいと願い続けた卒業式前日、彼は誰にも何にも言わず何処かに姿を消した。
電話番号もメールアドレスもメッセージアプリのアカウントも何もかも変更されていて、
コネクションも何もない大学生になったばかりの俺には探す手立ても何もない。
俺も結果遠方で一人暮らしとなったが思い出しては泣き、もっと早く告白していたら何か変わっていただろうかと後悔する日々が続いた。
新しい恋なんてするつもりはなかった。
俺はやっぱり、陽斗が良かった。
ある日動画サイトでたまたまある映画の予告編が流れていた。
有名なアメコミ原作の映画の新作。
そこに出てくるキャラクターは、確か陽斗の好きだったキャラクターではなかったか。
そう思うといても経ってもいられなくて、俺は映画の上映日が分かり次第チケットを取った。
その日はどうしても出席しないといけない講義が午後にあったから夕方からだけれど、
人のあまり居ない映画館だったからわりとあっさりとチケットは取れた。
寂れたショッピングモールの中にあるそこは、時間を潰すには丁度いい。
取り敢えずネットで発行したチケットを発券して階下で時間潰そうかと思った時、俺は信じられない光景を目撃した。
寂れたショッピングモールには似合わない、まるで少女漫画から飛び出たような垂れ目のイケメンの隣に居るのはーーー
「………陽斗?」
まさか、なんで陽斗が?
唖然としている間に、陽斗は何かを抱えて走って行ってしまった。
慌てて追いかけるも、陽斗らしき人影はもうどこにも見当たらず幻覚でも見たのかとも思ってしまう。
でもアレは間違いなく陽斗だった。
あのイケメンは誰なんだ?
陽斗は映画を観るのは好きだが、誰かと一緒に観るのはあまり好きではない。
だから俺はその話を陽斗から聞いて以降、映画に誘うのはやめたのだ。
でもあの男とは一緒に観たのか?
俺はダメなのに?
もしかしたら劇場で鉢合わせただけかもしれない。
鑑賞した映画だって違うものなのかもしれない。
それでも、俺がずっとずっとやりたかったことをあっさりとやり遂げたあの男が羨ましくて、憎くて仕方がなかった。
呼吸がおかしくなってくる。
落ち着け。
陽斗がここに居たということは、陽斗の大学はきっとこの辺りということだ。
大学なんて中学高校と違ってそうそう近くにある訳ではない。
大丈夫、きっと直ぐに当たりをつけれる。
「大丈夫、大丈夫。」
自分自身に言い聞かせる。
俺はきっと、陽斗の傍に戻れる筈だから。
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