無知と無恥

私は次兄のことが嫌いだった。
何にも役に立たないし、見た目は地味でオタクっぽいし、正直家族だと思いたくもなかった。
今でもそう思っている。
私はこんなにも大変なのに、娼婦のようにヤクザの首に腕を回し、
キスをして媚びを売って自分だけ助かろうとしている兄の性格が汚くて仕方ない。
私はあの後結局、本物の娼婦として売られた。
未成年なのに、だからこそ高く売れるとヤクザ達はゲラゲラと笑う。
そして身体を売って稼げども、稼いだお金の殆どがヤクザ達に取り上げられていく毎日。

なんで私がこんな目に遭わないといけないの?

あの役立たずの次兄のせいだ。
お父さんが闇金に借金するようになったのも、私がこんな目に遭ってるのも。
本当だったら今頃幼馴染の聖人くんから告白されて付き合って、そして何年か後には結婚して子供も出来て順風満帆な幸せな人生を送ってた筈なのに。
知らない人に媚び売って身体開いてお金貰って、それでも足りないからって取り立てに来たヤクザ達のちんこしゃぶって………なんで………

「そういえば兄貴の結婚式の話、聞いたか?」

全然気持ち良くなさそうに溜息吐いたかと思えば、煙草を吸い始めたヤクザがもう一人のヤクザにそう話し掛けた。
コイツらの言う兄貴は、次兄が媚びを売っていたヤクザの事だ。
結婚するの、ふーん。
次兄は捨てられたのか。
ざまぁないわね。

「あの二人そもそもホームレス状態で知り合ったろ?共通の友人もホームレスだから誰も呼べねぇからって挙げないらしいぞ。」

どんな夫婦だよ。
てかホームレスって何?
あの人、ヤクザの中でも偉い人なんじゃないの?

「マジかー。オヤジ、アニキと大翔くんの晴れ姿楽しみにしてたんじゃないのか?」

………え?誰と、誰?
刺激を与え続けないと怒られてしまうから必死にしゃぶるけれど、それよりも聞こえてきた名前が気になって仕方ない。
今、次兄の名前を言わなかったか?

「元々二人とも式に乗り気じゃなかったから、寧ろ言い訳にしてんじゃねぇの?ホームレス連中と結婚報告の飲み会はするらしいしな。」

しかし集中できないのはバレてしまったらしく、後頭部を掴まれて無理矢理動かされてしまう。
喉を抉る性器が辛い。
吐きそうになる………。

「お前も大翔くんみたいにキリキリ働けや。」
「中学の頃から新聞配達のバイトしてたんだろ?あとホームレスに混じって空き缶拾い。偉いよなー。お前と大違い。」

ゲラゲラと笑いながらヤクザ達がまた知らない事実を告げる。
次兄が新聞配達をしてた事も、空き缶拾いをしていた事も知らない。
どこで何をしていたかなんて、帰って来ないから分からなかった。
でも海翔兄さんが遊び回って帰って来ないだけだと言ってたから、そうなんだろうと思っていた。
遊び回ってる方が悪いから家に入れないとお父さんとお母さんが言ってたから、それは正しい事だと思ってた。

「大翔くんが居るおかげで兄貴が大人しくしてるからなー。めちゃくちゃ助かる。」
「くっせぇホームレスのたまり場に兄貴探さなくて良いの本当に楽!」

ゲラゲラと笑いながら、あんなにも役立たずの次兄のことを褒めちぎるヤクザ達。
私はいつまでも役立たず扱いなのに、屈辱的過ぎる………

「大翔くん大学行かねぇの?」
「行かねぇらしい。この間それとなく聞いたら、自分に掛ける教育費なんて無駄金の極みだって笑ってたよ………切ねぇ話だよなぁ………」

頭が悪いってだけなのに、ヤクザ達は同情したような声を上げる。
私だって高校行きたかった、大学に行きたかった。
アイツは望めば与えられるのに、なんで私ばっかりこんな目に遭わなきゃいけないの?

「………ってぇ!噛んでんじゃねぇよ!!」

悔し過ぎて思わず力が籠ったらしく、髪を掴まれたと思ったらお腹を思いっ切り蹴られた。
直前までの喉奥の刺激と合わさって、私は耐えられずに無様に嘔吐する。
なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないの?
アイツを虐めちゃダメなんて、誰も教えてくれなかったじゃない。



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