思春期の愚かさというものは、時にその身を容赦なく滅ぼすことにもなるのだが………
残念ながら事前にそれに気付くことは出来ず、悲惨な目に遭って初めて気付くより他にはない。
これはそんな愚かな五人の思春期の少年達の話。
■■■
昼休みにやっていたゲームで負けて、罰ゲームをやることになった。
そこまでは良かったんだが、何故か内容が【季節外れの転校生】と一ヶ月付き合うこととなってしまった。
あの転校生男だぞ?
なのに何故かとキレ気味に聞けば、転校生がムカつくからだと。
「誰とも関わろうとしねえおすまし陰キャちゃんじゃん?」
「仲良くしてやろうぜ」
仲間の内の誰かがそう言って笑えば、全員が堰を切ったように笑い声をあげる。
こうなってしまっては、自分達が満足するまで終わらない。
俺自身もあの誰とも関わろうとしないでずっと一人ですましている転校生に苛ついてたところだ。
どうせ押したらいけるだろう。
なんなら殴って従わせてもいいかもしれない。
今考えればなんでこんな非人道的な思いつきが出来たんだろうかとも思うし、少なくとも仲間内のノリを他人に押しけるべきじゃなかったんだ。
でもこの時の俺達はそんなことまるで考えてもなくて、ただ自分達の楽しさを満たすためだけに動いていて。
転校生が放課後になって何故か真っ直ぐに帰らずに暫く教室に居ることは知っていたから、あの転校生が一人きりになるのを見計らって俺は偽りの告白をした。
「ねえ、俺と付き合ってくれない?君のこと好きなんだ。」
ぼうっと窓の外を見ていた転校生が、怪訝そうな顔をして俺を見る。
こいついっつもすましてるけど、自分が格好良いとでも思ってるのだろうか?
どこにでも居そうな顔のチビのくせに。
「メリットは?」
「は?」
ただ黙ってじっと見つめてくるから早く返事しろよイライラしていると、転校生はただ一言それだけを言った。
は?
なんだそれ。
なんでお前なんかを得させなきゃいけねえんだよ。
「そんな時間の無駄をしないといけないメリットだよ。」
「時間の無駄って………」
「無駄でしょ?後ろに何人か人居るし、罰ゲームか何か?暇つぶしなら他所でやってくんない?」
転校生はつらつらとそう言いながら、本気でつまらなそうにアクビをした。
ふざけんなよ、陰キャチビの分際で。
「あー!でも、そうだな!俺の彼氏にちゃんと許可取れたら、良いよ?」
胸倉掴んで殴ってやろうかと思えば、何故か満面の笑みでそう言い始めた。
は?彼氏?
こいつマジもんのホモかよ、きもちわりぃ。
「君達が満足するまで恋人ごっこしてあげても良いよ?前もそういう経験あるし。
でも前と違って俺今ちゃーんと彼氏居るし、嘘だろうがなんだろうが許可無くしたら浮気じゃん?だからちゃんと俺の彼氏に許可取れたら、良いよ。」
ニヤニヤと笑いながら、転校生はスマホを取り出した。
なんで上から目線でそんなこと言われなきゃなんねぇんだよ。
そうは思うが、俺自身もここで引いたら負ける気がして意地になってしまった。
今思えばそう思う時点で転校生の掌の上で転がされていたようなものだったんだけど、
俺は………俺はそんなことに気付くこともなく転校生の挑発を受けてしまった。
「いいよ。」
にっこりと、女受けの良い笑顔を作って頷く。
どうせこんな陰キャチビの彼氏なんざ、同じ陰キャのデブか何かだろ。
完全に見下して油断していた俺達に、転校生はにんまりと可愛くもない笑い方をして電話を掛け始めた。
「あ、もしもしゆうくん?ごめんね、お仕事忙しいのに………今大丈夫?」
仕事?
どうせつまらねぇバイトだろ。
早く許可取れよどんくせえ。
コイツの彼氏もよくこんな奴と付き合う気になったよな。
「………なら良かった。あのね、今同じガッコの知らん人に付き合ってって言われた。
何か後ろの方で数人見てるから罰ゲームかなにかだと思うけどさ………ん?電話代わる?」
はい、と転校生はあっさりと俺にスマホを渡してきた。
電話を代われということらしい。
意外と度胸あるのな、コイツの彼氏。
めんどくせぇ………
「もしも………」
『よう。俺のオンナで随分と面白えことやってるみたいだな。』
恐怖が背中を駆け巡る瞬間というのを、俺は恥ずかしながらこの時初めて知った。
電話口から聞こえる、ハスキーで楽しげな声。
明らかに年上だろうと思われるその声は、声だけなのにまるで首を絞められているような感覚を覚える。
「あ………あの………」
『テメェのオンナを貸すんだ、流石にちゃんと話聞きてぇんだが生憎俺は仕事中でそっちに行く訳にはいかなくてな………分かるよな?』
「は、い………」
特に脅すようなことを言われた訳じゃない。
なのに何故だろう、肯定以外の選択肢は用意されてないことはいやだという程に分かった。
手が震える。
こんな男を彼氏にしている転校生は一体何者なんだ?
『オトモダチもちゃんと連れて来いよ?じゃ、大翔に電話代われ。』
「………はい。」
スマホを転校生に渡し、俺は震える足を叱咤してなんとか仲間達の所に行く。
最初はニヤニヤとしていた奴らだったが、俺の顔色を見て何事かと駆け寄って来た。
「どうした!?あの転校生に何かされたのか!?」
「いや………そうじゃなくて、俺達ヤバいこと仕出かしたかもしれない………」
事情を話せば仲間達はなんだそんなことかと、受けて立とうぜと笑っていたが、それはきっとあの人の声を聞いていないからだろう。
体の震えが止まらない。
俺達は無事で済むのだろうか?
「ねえ。」
転校生の彼氏を殴ってやるかと興奮してしまってる仲間達の前に、ひょっこりと転校生が姿を見せた。
彼氏と会話ができたからか、上機嫌ににこにこと笑っている。
何度見ても平凡で特に目立った特徴も無い、敢えて言うならばチビでガリだというくらいの男なのに、あの電話の主はどこが良いのだろうか?
「迎えの人着いたみたいだから車乗りなってさ。」
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