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「ねぇ、いつもどこ行ってるの?」

転校生は意外にもあっさりと俺を居ないものとする風習を受け入れてくれたみたいで、
二週間もすれば授業中にゆうちゃんから呼ばれて席を立ったとしても不思議そうな顔一つ浮かべることはなかった。
ま、陽キャグループの人だからそんなもんだよねって思ってたらいきなりこれ。
一応誰も居ない時を狙ったみたいだけど、なんだというのか。

「ねぇ待って。」

取り敢えず無視してゆうちゃんの待つ空き教室へと歩く。
何故か必死な形相で追いかけて来るけど、無視だ無視。
多分ゆうちゃんは久しぶりだしヤる気満々だろうからこんなの連れて来たら機嫌損ねそうだけど、着いてくるんだもん。仕方なくね?

「この間ホームレスの人と公園でキスしてたよね?」

そう思ってたら予想外の問いをされて、思わず足を止める。
俺はあの日からゆうちゃんと会ってセックスして雨風凌ぐことよりも、
ゆうくんとキスしてイキ顔とイキ声晒しながらゆうくんのダンボールハウスで朝までイチャイチャすることのが多い。
だってゆうくんがもっと好きになってもっと狂えって言ったんだし。
だとしたらゆうちゃんにかけてる時間なんて無駄だ。
ゆうちゃんとセックスする日なんて、ゆうくんがあの場所に居ない日くらい。
ゆうちゃんは別にいいけど、やはりフカフカのベッドは魅力的だ。
ゆうくんは俺の事を俺と同じ意味で好きではないだろうけど、
家の中に連れ込んでくれるくらいだから多少絆されてくれるんじゃないかなって思ってる。
目指せ押しかけ女房。

「この後、長谷川と会ってセックスするんでしょ?前に屋上でヤってるの見たことある。」

ゆうちゃんは俺がゆうくんを優先するようになって、何故か校内で俺とセックスをするようになった。
家に行く時ならまだしもそうじゃない時もしようとするから見返り無いから嫌だって言ったのに、
成績落として留年しないようにノート渡すと言われたら受けるしかないだろう。
これがまた結構分かりやすくまとめてあって、俺はちょっとだけ成績が上がった。
なのでゆうくんのところに行く日だろうが、取り敢えず放課後までをゆうちゃんに売ることにしたのだ。
とはいえ校内だから、誰かに見られるだろうとは思ってたけど………

「長谷川と付き合ってるのにあんな汚いおっさんに抱かれてんの?」

見下したような声に、俺は怒りで目が真っ赤に染まるのを感じた。
聖人とは付き合ってないし、俺はゆうちゃんとパパ活ごっこをしてるだけ。
てか何?

「………ゆうくんのこと何も知らないくせに、勝手なこと言わないでくれる?」
「えっ?」
「大翔!遅いから迎えに………青山となにしてんの?」

腹が立つ。
生きてきた中で、一番腹が立った。
なんでお前みたいな陽キャが訳知り顔でゆうくんのこと批判してんの?
俺だってゆうくんのことを知ってる訳じゃない。
寧ろ名前も、何してきた人なのかも、そもそも居ない日は何をしているのかも全く知らない。
それでも俺はゆうくんがどんな性格なのかを知っている。
誰が何と言おうと、ゆうくんは俺の王子様だ!

「良かったじゃん、長谷川くん」
「………え、大翔?」
「随分お友達思いなお友達だね。長谷川くんのために俺に文句言いに来てくれたみたいだよ。」

ゴソゴソと鞄を漁り、ゆうちゃんから貰ったノートを聖人に………長谷川くんに突き返す。
ゆうくんを批判する人なんて俺の世界に要らない。
でも長谷川くんが居るから関わるというのならば、俺はもうゆうちゃんのことなんて要らない。

「待って、待って大翔。何で?何でそれ返すの?何で呼んでくれないの?」

明らかに焦り始めた長谷川くんに、転校生がビックリしたように目を丸めた。
分かる。俺もビックリしてる。
てか受け取ってよ。
帰れないじゃん。

「もう要らないから。」

俺が長谷川くんの言葉に纏めてそう返せば、何故かぼろぼろと泣き出した。
えぇ………よく分かんないけど俺が悪いの?
めんどくさー。
え?てかあの日俺泣いちゃったけどゆうくんもこんな心境だったのかな?
え?ヤバくない?めっちゃ不安なんだけど。

「はい。なんか受け取ってくれないから、これ長谷川くんに返しておいて。」
「えっ?えっと………」
「ヤダ!大翔!大翔お願い!俺まだ役に立つから!」

めちゃくちゃ不安だしゆうくんに会いたいしで、俺は呆然と突っ立ってる転校生にノートを押し付けた。
なんか長谷川くんが喚いてるけどそれどころじゃないし。

「バイバイゆうちゃん。楽しかったよ。」

フカフカのベッドもありがとう。
取り敢えずお礼はきちんとしておく。
そしてゆうくんにはごめんなさいをしよう。
泣き喚いてごめんなさいって。
面倒くさかったよね。
でもチャンスくださいってちゃっかりしたら笑って許してくれないかな?



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