6-2

未成年、子供。

それはどうしようもない現実だな、と高城は清潔な白いシーツのベッド眠る吉塚の顔を見ながら思った。
男の自宅に監禁されていた吉塚は、無事に警察に保護された。
結局は素人の考えたことではあるし、何よりもあの男子生徒達の動きが派手過ぎたのがスピード解決の要因だ。

しかしスピード解決と言っても極度の緊張と麻薬の拒否反応による肉体的疲労は吉塚が自身が思っていたよりも負担になっていたらしい。
駆けつけた警察に保護されるまでは普通に立って歩けていたらしいのだが、百瀬と颯太の顔を見た瞬間糸が切れたように倒れてしまったらしい。
恐らくは漸く終わった実感と安堵感が出たのだろう。

【らしい】ばかりなのは、高城はその場には行けなかったからだ。
分かっていたから高城は行きたいとも言わなかったし、ゴネもしなかった。
いくら同棲している恋人とは言えど、所詮は他人で未成年だ。
今は入院することになった病院で泊まりで見舞わせてもらっているが、これだって結構無理を言った状態となっている。
例えばもう少し歳を重ねて、それでいてパートナーとなっていたら話は別だったんだろうが………

「役に立たねぇ彼氏でごめんね………」

守ると決めたのに、守れなかった。
守りたかったのに、結局大人に頼りきりになってしまった。
それが正解なのだと分かっていても不甲斐ないし悔しい。
吉塚一人に背負わせてしまった事実は、これから先ずっと高城は引き摺っていくだろう。

―――強くなろう。

正しい強さで、共に戦えるように。
プライドを守れない雄に、プライドを持つ資格はない。
共に戦えなくても、せめて心を守りたい。
そう思いながら高城は穏やかな寝息を立てる吉塚の髪を撫でた。
血液検査の結果特に異常は見られなかったらしいが、服薬ではなく注射なのでいくら嘔吐したとはいえ薄まっている訳ではない。
注射した量も実行した学生達も覚えていないらしい。
その為、吉塚は目が覚めたとしても暫く入院することになった。
万が一を考えてのことだ。

「………んっ………」
「大地?」

ふるりと、吉塚の瞼が揺れ小さな吐息のような声が聞こえた。
思わず息を飲んで見守ると、ゆっくりゆっくりと吉塚の瞼が開き、やがてぼんやりとした焦点ではあるが高城の方へと顔を向ける………
目が覚めたらしい。

「大地、大地。俺分かる?」
「レオン………?」
「そう、俺だよ。気分はどう?お医者さん呼ぼうね。」

高城は興奮しそうになる声をなんとか抑えながら優しくそう言うと、ナースコールへと手を伸ばした。
しかしそれを、吉塚がやんわりと止める。

「大地?」
「レオン………俺、頑張ったよ………?」

じんわりと、吉塚の目尻に涙が溜まっていく。
本当は怖かった。
殺されてしまうんじゃないかと不安だった。
そうじゃなくても犯されてしまうんじゃないかとも思った。
けれども高城のメスとして相応しい立ち振る舞いを、吉塚は頑張ったのだ。
まぁ、最終的に怒りに身を任せてしまった感はあったが。

「………そうだね。大地は頑張ったよ、本当に………」
「レオン?」

ポタポタと腕に感じた感触に、吉塚はそっと高城の顔に必死に焦点を合わせる。
吉塚の愛しくも美しいケモノが、苦しそうに涙を流して吉塚の手を握り締めていた。

「………生きていてくれて、良かった………!」

両方の瞳から溢れる涙を拭うことなく、高城は半ば叫ぶようにそう言った。
何もできなかった無力さを嘆くように。
腕の中に戻ってきた命を喜ぶように。

「………俺も………会いたかったから………!」

吉塚の方も手に力を込めて。
暫くの間二人で手を繋いだまま、ただ無事を喜び合って涙を流し続けた。



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