なんで、なんで、なんで!?
ここまで思い通りにならないことなんて一度だってなかった。
私は可愛いから、皆何かと言う事を聞いてくれたし、何だって譲ってくれた。
それなのに、それなのに!
あの陰キャデブスはこれみよがしにと手を繋いで登校して、気持ち悪いったらない。
弘慈も気持ち悪そうにしてるし、本当に止めて欲しい。
『町田さんこそそういう言い方止めてくれない?俺と誠也はガチで付き合ってるし、その言い方自体が失礼。』
だから私は彼女として止めてあげようとしたのに、なんで弘慈が陰キャデブスの肩を持つの?
おかしいよ。
男同士の恋愛とか、そんなの存在しないのに。
だからおかしいって、教えてあげたのに!
『何もおかしくないよ。俺はコウジが好きで、コウジも俺が好き。それだけなんだから。』
おかしい、おかしい、本当に異常だよ!
陰キャデブスがホモなのは別にどうだって良いけどさ、弘慈を汚さないで欲しい。
弘慈は私の彼氏なの。
付き合ってもう二年以上になるし。
頭良いし、高城くん程じゃないけどそれでも他の人よりずっとイケメンだし。
読モやってる私には一番相応しい相手なんだよ。
アンタみたいな陰キャデブス、弘慈に全然相応しくない!!
なのに―――
「(なんで、あんなに楽しそうに笑うの!?)」
中学の時ですら見たことないような笑顔で、弘慈は笑っていた。
悔しい、なんで?
アイツ、見るからに陰キャじゃん!
顔だってブスだし、いちいち私に突っかかってきて性格だって悪いし!
なのになんであんなに幸せそうなの!?
私の傍に居ないクセに!
「許さない………絶対に許さない!」
私を侮辱するあのクソブスも、私と付き合ってるクセにあんなのと浮気以下なことをする弘慈も!
私の方が注目されてる。
私の方が可愛がられて当然。
私の方が、あんなウソツキホモ野郎よりも優れてるの!!
「おはよー!」
「あ、町田さん。」
「おはよう………」
一回だけ深呼吸して教室の中に入れば、何故か微妙な顔をしたクラスの奴らが微妙な顔をして見てきた。
なんで、なんでそんな目で見るの?
私、そんな目で見られるようなことしてない。
見られるべきはあの陰キャブスなんじゃないの?
「ねぇ、町田さん。」
「何?」
「こういうの、やめた方が良いよ………?」
昨日の腐女子が話かけてきてキモいなって思ったら、スマホの画面を見せつけられた。
なんだろうと思ったら、昨日私がSNSにあげた投稿だった。
弘慈に電車に置いて行かれたのが悲しくて、投稿したやつ。
『私の遠距離恋愛してる彼氏が、陰キャブスとホモカップルみたいなことさせられて可哀想』
事実しか、書いてないのに何で?
なんでやめないといけないの?
本当のこと書いちゃダメなの?
「あのさ、町田さんと蒔田くん付き合ってないでしょ?」
「付き合ってるよ?」
「じゃあ蒔田くん、康田くんと二股かけてることになるけど、蒔田くんそんな人じゃないでしょ?」
「違うよ!弘慈は浮気なんてしてないし、あの陰キャブスが弘慈に無理矢理絡んでるだけじゃん!」
何コイツ。
妄想はやめてよホントキモ!
てか何?
このクラスの人達、こんな腐女子のバカみたいな妄想を信じてるの?
キモ過ぎるんだけど!
「………いくらなんでも、それは酷過ぎ。正直見損なった。」
「なんで私がそこまで言われなきゃいけないの!?アイツが悪いんじゃん!」
弘慈から守られてるみたいに後ろに居るブスを指して言えば、クラス中がざわついた。
ムカつく、ムカつく、ムカつく!
「ホモのクセに堂々と生きててさぁ、死ねば良いのに!弘慈にはね、私みたいな可愛い子がお似合いだし、私みたいな可愛い子と付き合うのが正常なの!勝手に気持ち悪い異常な道に引き込まないでよ!!」
私は正しい。
だって、パパとママはいつだってそう言ってくれた。
パパとママはそこらの子達の親よりも偉いし賢い人だから、だから私はいつだって正しいんだって言ってた。
高城くんに付き纏ってた子だって、東雲さん達だって、排除されて当然だって。
パパとママが私が正しいって言うから私の意見は全部正しいの!!
「人として、どうかと思うよその発言。」
「うるさいうるさい!アンタみたいなブスより、私の方が正しいの!私の方がフォロワー多いし、読モだってしてるし!」
私の方が社会に貢献してる!
上流階級の子供の私の方が、普通の子達のアンタ達よりも偉いんだよ!
SNSだって、皆私に同情してくれてるじゃん!
「虚しくないの、それ。」
教室に響くように聞こえたのは、あの陰キャデブスの声だった。
虚しいって何?
なんでアンタにそんなこと言われなきゃいけないの?
なんでそんな………同情するみたいな目をされなきゃいけないの?
「SNSしてないからよくわかんないけど、それだけが全てなの?」
「当たり前じゃん。バカなの?世界中の人達が私に注目してるんだよ!?」
私の顔に、声に、姿に、ファッションに!
日本だけじゃなくて世界中の人達が私に注目してるの!
「だったらちゃんとしなきゃダメじゃない?言いたくないけど、世界中で見てるような場所で差別発言はいけないと思う。」
差別発言って、なにそれ。
私、そんなことしてないもん。
そんな悪いこと、してないのに………
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