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春。
出会いと別れが訪れる季節で、二年生へと進級した俺らはクラス替えという形で新たな出会いと別れを迎えた。
………とはいえ、殆どが前のクラスと同じメンバーだから新鮮味もクソもないんだけど。
進路だか成績だか忘れたがそういうのを考慮してクラスメンバーを変更すると聞いていたが、実際入れ替わったのは数人程度だ。
出来上がってしまった関係にぶち込まれるのって可哀想………とも思うが、
俺は自分勝手なのでコウジと吉塚とクラスが離れることがなくてホッとしている。

「これで卒業まで同じクラスだね。」
「うん!」

クラス表のボードを見上げる俺の手を握りながらにこやかにコウジが言うから、俺も嬉しくなる。
卒業まで一緒のクラスは本当に嬉しい。
春休みもずっと一緒に居たけど、だからこそ離れてしまうのは寂しくて仕方ない。
実はクラスが離れたらどうしようかと思って昨日はなかなか寝付けなかったのは内緒だ。

「席も前後左右が良いなぁ………」
「でも最初の席は多分あいうえお順だろ?多分。」

嘆くコウジには申し訳ないが、更にそこに男女交互を挟むだろうから俺とコウジが近くの席になることは難しいと思う。
悲しい。
吉塚は多分俺の後ろになるだろうからそれは嬉しいけど、やっぱりちょっとでもコウジと離れてしまうのは寂しいと思ってしまう。
………ワガママ過ぎだろ、俺。
ちょっと調子に乗ってる、反省反省。

「【ま】と【や】ならそんなに離れてなくねー?【た】と【よ】程じゃないよねー」
「おはよう康田。席前後だと良いな。」

ぶーぶーと文句を垂れながら背後に現れたのは高城で、そんな高城をスルーしながら吉塚は俺に向かって手を挙げた。
吉塚は相変わらずクールだ。
そして俺ずっと吉塚は俺と同じ陰キャだと思ってたけど、
高城達のキラキラグループに自然と混ざりながらも俺達のグループにも今までのように居る吉塚を見て確信した。
コイツ、実は真の陽キャだと。
でもだからって吉塚と友達やめるとかそんなこと絶対しないけど。

「おはよう吉塚!高城もおはよう!」
「おはようヤッスー。今日もイチャイチャしてんねぇ、いいこといいこと。」

高城は相変わらずチャラついてるように感じて、ちょっと苦手だったりする。
吉塚の恋人だから、悪い奴じゃないことは分かってるんだけど。
なんなら吉塚の方が不良か?と聞きたくなるくらいの奴だったりするんだけど、
それでも一度抱いてしまってる苦手意識はなかなか取れない………高城がマジでイケメンだっていうこともあるのかもしれん。
ごめんね、高城。

「お前とまた一緒なのはもはや腐れ縁だな。」
「ホントになー。」
「そういえば高城とコウジって中学の頃から一緒なんだっけ?」

四人で教室に向かいながら他愛もない話をする。
中学の頃のコウジ………どんな感じだったんだろうか。
やっぱりモテたろうなとか、きっと大事にしてた彼女が居たろうなと思うと胃が少しムカムカする。
コウジの過去に嫉妬とか、馬鹿みたいだ。
でも取り敢えず行き場の思いはコウジのワイシャツを掴むことで昇華する。
シワになってしまえという呪い付きで。

「………かわっ!かわいっ!!!」
「はいはい。もう大地が先に行ってるから置いてくねー。他の生徒の邪魔したらダメだよー。」

高城がとっとと先に向かう足音を聞きながら、俺はもう一度コウジのワイシャツを握り直す。
迷惑だろうか。
でも俺のモヤモヤはちっとも晴れなくてぎゅうぎゅうと握ってしまう。
なんで今更コウジの元カノ気にしてるんだろう、俺………

「誠也?どした?」
「………俺の方がコウジのこと好きだし。」

俺の言葉にコウジはポカンと口を開いた。
まぁ、そりゃあそうだろう。
俺も思わず口に出してしまっただけだから、話の前後とか分かんないだろうし。
でも思わず口に出ちゃう程に思ったんだから仕方ない。

俺の方がコウジの元カノ達よりコウジの方が好きだ。

何か秀でたものができる訳じゃないし、凡庸な見た目だから当然美人とか可愛いって訳でもない。
性格だってどちらかといえば卑屈で悪い方だって分かってるけど、それでもコウジのことを好きって気持ちは誰にも負けない。
例えそれが依存だとしても。

「俺も、誠也のことが好きだよ。吉塚相手にすら嫉妬する位に。」

コウジは嬉しそうに笑いながらそう言うと、いつものように唇を撫でてくれた。
吉塚に嫉妬する意味はちょっと分からないけど、それでも嫉妬する位に好きでいてくれるという事実はとても嬉しい。

「おーい、お二人さん。邪魔だからとっとと教室入れよー。」
「刺激が強過ぎてニューフェイス達が固まってるしな。」

すっかり聞き慣れたクラスメイト達の声に、ハッとして振り返る。
そこには呆れたように俺達を見るクラスメイト達と、
多分今年から同じクラスになるんだろう合同授業とかで見覚えのある数人の呆然とした顔が―――

「ご!ごめん!コウジ、行こう!」
「うんうん、行こうか。」

幸せそうに笑うコウジの手を引っ掴んで、俺は慌てて教室に逃げ込んだ。
逃げ込んだところでどうせさっきの奴らとは顔を合わせるんだけど、
それでも廊下でなかなかに恥ずかしい会話をしてしまったという事実をどうにかしたかったのだ。

「誠也」
「なに?」
「好きだよ。」

とろりとした顔で告げられて、思わず足が止まる。
相変わらず俺はイケメンが苦手だし、最近漸く高城のことを認識できるようになったレベルだ。
それでも、やっぱり俺の彼氏は世界で一番格好良いし可愛いって思うのだ。

「「はよ入れ!」」
「………ッチ、うるせぇな。」
「ごごごごめん!」

一気に凶悪な顔をして舌打ちをするコウジを、慌てて引っ張る。
俺の手よりも長くて大きくて綺麗な掌が好きだ。
なんで今日はこんなにもいっぱい当たり前なことを考えてしまうのだろうか?
新しい季節に新しいクラスの始まりだからか?

妙にふわふわとした気持ちを少し持て余しながら、俺はコウジと共に新しい教室へと足を踏み入れた。



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