4-2

「今日なんか楽しそうだったな」
「言わないで………高城にイジメられたの。」

昼休み。
今日も今日とてうどんをサッサと食べて秒で教室に戻って誠也の真隣を陣取る。
ちなみにうどんなのはメニューの中で一番出来上がるのが早くて、それでいてすぐに食べ終われるからだ。
俺早起きして弁当作ろうかな………誠也と一分一秒でも離れたくない。
ちなみに食堂自体が好きじゃない誠也を連れて行って学食で一緒になんて論外だ。

「たかぎ………」
「昨日から吉塚と一緒に飯食ってるあのクソチャラ男だよ。てか今日は吉塚と一緒じゃないんだな。」

食べにくいだろうかと思いつつも抱き寄せながら、戻って来た時から思っていた違和感を口にする。
いつも吉塚と一緒に食ってるから吉塚が羨ましくて仕方なかったのに、今日は昨日に引き続き高城と高城の取り巻き女子達と食っている。

「よく分からん。弁当が甘くなるからチャラ男くんと食うんだと。」

ムッと唇を尖らせながら、誠也はそう言った。
尖った唇可愛い、キスしたくなる。
弁当が甘くなるとはどういう事だろうかと思うが、まあその謎の言い訳のおかげで俺は誠也との二人きりの時間をゲットできたので良しとする。

「寂しい?」
「ちょっと。………お前が戻ってくる前までは、寂しかった。」

ポツリと告げられた言葉に、俺は昨日に引き続き本日も溢れ出る愛情が羞恥となって止まらなくなる。
俺マジで明日から早起きして弁当作ろう。
例え今の発言がボッチ飯寂しかったという意味でも、吉塚と代わりだという意味でも構わない。
なんならもうぶっちゃけそれでもいい。
俺は一分一秒でも誠也から離れない大義名分を手に入れた事になるのだから。

「ごめんね誠也。明日からは寂しい想いさせないよう頑張る。」
「ん?なんでそうなった?」

なんでもクソもないけど、取り敢えず俺は怪訝そうな誠也の頭を撫でて誤魔化した。
誠也は甘え慣れてないから、俺が甘やかせば甘やかす程遠慮してしまう。
ならば言わずに甘やかすが吉だ。

「コウジ」
「んー?」

ずいっと。
誠也は俺に弁当のおかずのピーマンを差し出した。
昨日はアスパラだったし、緑色の野菜は嫌いなのかな?
好き嫌いはあまり甘やかしたくないが、一生懸命半分以上は食べているのは確認してるし大丈夫だろう。

「くれるの?ありがとう。」

口を開けば、ポイッと投げ込むようにピーマンがやってくる。
濃い味付けで誤魔化されている辺り、誠也のお母さんもピーマンが嫌いなの知っててわざと入れているのだろう。
そう言った厳しさも大事だよな。
俺はデロデロに甘やかしてダメにしてしまいたいけど。

「美味しい。」

ニコッと笑って言えば、そうか?と素っ気なく言いながらも目線が泳ぐ。
押し付けてしまった事に、俺と誠也のお母さん二人に対して申し訳がないって思ってるんだろうなぁ。
本当に可愛い。
本当に可愛いのにこの可愛い誠也がまだ俺のモノじゃないという事実にゾッとする。

「ご馳走様でした。」

おはようからおやすみまで、誠也は挨拶はキッチリする。
ヤンチャぶってるけど、完全にそうはなりきれないのが本当に可愛い。
俺【誠也本当に可愛い】しか思えてないなさっきから。
恋は盲目というが、自分がここまでだとは思いもしなかった。

「なぁ、誠也」
「ん?」
「俺もっと誠也のこと甘やかしたいんだけど。」

ちょっとだけ調子に乗って、自分の膝をポンポンと叩いてアピールをしてみる。
意図に気付かれるか………気付かれたとして引かれたりしないか………
まあ引かれたり嫌がられたら止めて無かったことにする気は満々なんだがな。

「それは………」
「嫌?」
「嫌、じゃないけど、まだしない………」

ぷいとそっぽを向きながら、ボソボソとした声で誠也はそう言った。
まだ………まだ!
つまりはいずれはしてくれるという解釈をしても良いんだよな?な?
しかも体重はこっちに預けたままってことはそういうことだよな!

「………じゃ、じゃあさ………」

頭の中で大パニックを起こしながらも冷静さを装う。
口の中がカラカラに乾いて気持ちが悪いけれど、ここまできたなら期待してしまって良い筈だ。

「金曜日、ゲーセン行った後は?」

俺の家では?とは、ヘタレてしまって聞けなかった。
今まで女の子相手でここまで緊張した事ないのに、誠也に関してはどうしてもうまく格好つけれない。
ジッと誠也の瞳が俺を見つめる。
もう初めて会った時みたいな昏い感情は見当たらない、澄んだ瞳。
これが誠也の本当の瞳なのだとしたら、この瞳で今までどんな形でも愛されていたあのカサハラとかいう幼馴染が憎くて仕方ない。

「良いよ………コウジがシたいこと、いっぱいシテくれるんだろ?」

………待って、頼む、こんなん勃つ
昨日の意趣返しのつもりなのか、そんなことをいう誠也を叱り飛ばしたくなってしまう。
そんなエッチなのはガチで二人きりの時にしてくれ。
元気いっぱいになってしまった場所が痛い。
馬鹿みたいに顔を赤くして、馬鹿みたいに頷くことしかできない俺に、誠也はドヤ顔で目を瞑り更に寄りかかってくる。
予想外のまさかの小悪魔っぷりに、頼むから早く金曜日になってくれと、俺は馬鹿みたいなことを思った。



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