4-1

初めて会った時、危ない目をした奴だなと思った。
ラリってるとかそんなんじゃなくて、何もかもを諦めているような、そんな目。
誰よりも昏い瞳は、彼の持ち前の明るさに誰もが誤魔化されていたけれど、俺は心配で心配で仕方なかった。
死んでしまうのではないだろうかと。
その日から、俺は彼が気になって仕方なかった。

けれども彼の中で吹っ切れたのか他に理由があるのか、瞳の中の昏い感情はどんどん薄れていってるようにも見えた。
彼自身が乗り越えたのならば、それはとても喜ばしい事だ。
でも俺は、彼が他の誰かの力で乗り越えたのならどうしようかとも思った。
どうしようって、何だよ。
彼にもそういう存在が居たんだって喜べよ。
けれども心の中のモヤモヤは晴れなくて、寧ろ時折見える彼の昏さに安心を覚える程だった。

俺は彼が嫌いなのか?
そう思ったが、そもそも彼とは嫌いになれる程関わった事はない。
イケメン嫌いで有名な彼は、イケメンチャラ男な高城相手程ではないが、俺にも一定の距離を保っているように思えた。
………うん、胃が重くなる程に悲しい。

じゃあなんでこんなにも彼の不幸を喜んでいるのだろうか。
そんなことをぼんやりと考えながら彼を見つめていると、ふと、目が合った。
しまった、見つめすぎたかと思ったけれど、彼は不思議そうな顔してキョトンと首を傾げた。

―――は?可愛いが過ぎるだろ………

頭を過ったアホみたいな感情は、けれどもぐるぐるとした心にストンと落ちていった。
野良猫みたいな警戒心の高さのクセに、何かと隙が多い所が心配でたまらない。
あの昏い感情を、振り払うのは俺がしてあげたい。
なんなら常に傍に居て、あれやこれやと世話を焼いて俺が居ないとダメにしたい。
際限なく、甘やかしたい………。
つまり俺は、彼が好きなのだ。
初めて会った時から、恋愛感情的な意味で。

はー。納得、納得。甘やかそ。

俺は好きになった相手に尽くしたいタイプだし、思い立ったら吉日なタイプだ。
ドキドキと高鳴る胸をそのままに放課後アタックしてみれば、思ったよりも複雑な事情を知ってしまった。
身体がカラフル、なんて笑っていたけど、すごく痛かったろうし、苦しかったろう。
無理して笑って欲しくなくて、甘やかしたいと駄々を捏ねる。

羨ましいと思った。
そこまで彼に想われていた、幼馴染の男が。
憎らしいと思った。
そこまで彼に想われておきながら、簡単に彼を傷付けた幼馴染の男が。

次もしもソイツが彼を傷付けたら全力で護ろうと思いながらゲーセンに行き、まさかの本人登場に少しだけ焦ったのは内緒だが。
そんな焦りも、痛がる彼の顔に怒りにすり替わったけれども。
対峙してみて分かったが、どうやら彼が気付いていないだけで幼馴染の男は彼の事を恋愛感情的な意味で好いているようだった。
もしかしたら、彼に頼って欲しかったのかもしれない。
だとしたらやり方を間違え過ぎているし、殴った件もそうだが彼自身に暴力を振るうなんざお門違いもいい所だろう。
しかもその日から付け回してるし。
人の目があるからか、朝は彼を尾行していない所がなんとも卑怯で気持ち悪い。

俺は絶対に、やり方を間違えない。

彼に頼られたいのならば、彼に絶対的な味方だとアピールし続けるべきだ。
誠意を持って態度で示せ。
それすら出来ないししようともしないクセに彼の恋人の座を手に入れようとするなんて烏滸がましいだろ。
アイツの方こそ身の程弁えろ。

そんな奴を反面教師に誠意を見せ続けた結果、今や彼は俺がちょっとベタベタする位じゃ嫌がらないようになった。
可愛い。
肩を抱き寄せて頭を撫でても嫌がらない所か、体重を預けてくるようにまでなったのだから感慨深い。
しかも当たり前だけど俺に対してだけ。
昨日なんて俺の顔が好きとか言うし、あーんしてくれるし、エッチなの嫌いじゃないなんて言ってくるし。
これはもう………

「彼氏面して良いのでは?」
「寧ろ今まで彼氏面してないつもりだった事に驚きなんだけど?」

本日の体育の授業はバスケットか卓球かの選択授業。
バスケットを選んでしまっていた俺はぼちぼちサボりながら、
体育館の二階スペースで卓球を楽しむ誠也を見つめながら、高城と駄弁っていた。
可愛い、楽しそう。
俺も卓球にするんだった………。

「彼氏面とかする訳ないだろ。まだ付き合ってもないんだぞ。」
「いやー、十分しちゃってるじゃん。友達は指で唇に触ったりしないし、手ぇ繋いで帰ったりしないが?」

昨日手を繋いで帰ったのは牽制のためだし、
確かにその前から駅から手を繋いで帰ってたけどそれはあの男が現れた時に真っ先に護れるようにするためだから彼氏面ではないだろ。
これが彼氏面なら、俺はいっそ朝誠也を迎えに行って登校するのも許される筈だ。

「謎理論止めろよ。お前案外愛が重いのな。」
「重くねぇよ。」

好きな子と朝も夜も一緒に居たいのは普通だろ。
性的な意味はなくとも、普通に身体のどこかに触れていたいと思う。
キスだっていっぱいしたい。
照れて真っ赤になる顔も見たいし、はにかむように笑う顔だって見たい。

「ヤりたいとかは?」
「は?」
「お前わりと手ぇ早かったじゃん。ヤッスーとはヤりてぇって思わねぇの?」

手が早いとかお前に言われたくないし、ちんこで物事を考えるなと言いたくなったが、ふと考える。
誠也とヤれるのかどうか。
ヤるとしたらどっちなのか。
ヤれるかどうかで言ったら全然ヤれる。
誠也のちんこなら余裕でしゃぶれるし精子飲める自信ある。
ヤるとしたら………どっちかと言えば突っ込みたい。
でも誠也が望むなら全然突っ込まれても良いかなとも思うし、そもそも甘やかしに甘やかしてドロッドロに蕩けさせたい。

喰う側の誠也は色っぽいだろうし、喰われる側の誠也は絶対可愛い。
意外にも食い意地が張ってるからちょっとムチムチな太腿にキスマ付けたいし、ローションぶっかけて素股とかでも絶対に気持ちイイ。
俺は知らないけど知ってるんだ。

「マッキーおまっ!」
「ん?………あ゙!」

隣に座る高城が急に慌てだしたから視線を追えば、俺の体操着がキレイに三角テントを作っていた。
まあちょっと所じゃなく妄想しましたのでね!
でしょうね!!

「お前が言い出すからだろうが!」
「人の所為にすんなよ!ちょっとー!ヤッスーこいつから逃げた方が良いってー!」
「余計な事ほざくな!見られるだろうが!」

変に前屈みになりながら高城と言い合っていると、バスケの審判をしていた教科担任に怒られてしまった。
どうかこんなクソダサいところ誠也に見られてませんようにと思ったが、時既に遅し。
バッチリ見ていた誠也と目が合ってしまい、結構ガチで泣きたくなった。



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