その日からの俺の日常は少しだけ変わった。
学校生活は今まで通り、イケメンには近寄らずそれ以外の奴らとは付かず離れずの友人関係。
「とーもや。今日一緒に帰ろーぜ。」
のっしりと、背中に重みが加わる。
そう。
今まで付かず離れずな友人関係しか気付けなかった俺に、スキンシップ多めで心配性な友人が出来たのだ。
一人きりで帰っていた放課後も、時々とは言えコウジと帰るようになった。
独占しているみたいでまた周りに不快な思いをさせるんじゃと内心ヒヤヒヤしたけど、そんな様子はない。
俺と違ってコウジは世渡り上手なようだ。
「良いぞ、どっか行く?」
「いやー。コンビニ寄ってさぁ、俺ん家行こうぜ。」
コウジの家は学校から見れば俺の家よりも一駅先にある。
切符代は僅かなものだから気にならない。
逆にコウジは定期券内だし誘うのは自分だからと家まで送ってくれる。
モテ男の気遣い、ここに極まれり。
まるで彼女みたいな扱いには戸惑いを覚えるが、ちょっと嬉しくてむず痒い気持ちにもなる。
「何する?」
「んー………あ!この間言ってた映画あるじゃん?あれサブスクで配信されてたからそれ観ようぜ!」
会話の中でチラリと出て来ただけの話題を、コウジはキチンと覚えていてくれる。
彼女が出来たら記念日とか大切にしそうだよな。
そういえばコウジ、今は彼女居ないってこの間言ってたな。
好きな人は居るけど、と笑う顔を思い出す。
「誠也?」
「あ、ごめっ………ちょっと余所事してた!映画良いじゃん!ポップコーンとコーラ買おうぜ!後紙コップ!」
何故かジクジクと痛み出した胸を誤魔化すように、不審がるコウジに畳み掛けていく。
コウジの、好きな人。
どんな奴なんだろうか。
でもきっとコウジに相応しい、努力をしっかりして驕らない美人なんだろう。
王子様が好きになるのは、努力をした人間だと相場は決まってる。
努力を怠る人間は、そもそも好かれもしない。
そう、俺みたいな―――
ん?なんで俺?
「紙コップなら家にあるけど………なんで?」
「映画館で観てるっぽくない?家だとよくやる。」
じわじわと湧き出る感情を、パッキン付きの蓋をするイメージで閉じ込める。
身の程を知れ、俺。
ただでさえギリギリなラインに立っているんだ。
これ以上を望むとまたあの日の二の舞になるぞ。
「なるほどなー!その発想無かったわ!それならスーパー行かねぇ?」
「良いけどなんで?」
「映画館みたいなカラフルな大きめの紙コップ買おうぜ!コンビニよりは安いだろうし!」
俺のよくやるおウチ映画スタイルが余程気になるらしい。
コウジがそう言って笑うので、俺は反対するまでもなく頷く。
安いに越したことはないしな。
お互い通学鞄を持って、クラスメイト達に手を振って教室を出る。
最初は少し怪訝そうにしていたクラスメイト達も、まるでいつもの光景みたいに受け入れてくれる。
「映画館のLサイズのカップあるかなー」
「無いだろ。それならペットボトルでそのまま飲めよ。」
「えー、情緒!」
ケラケラとくだらないことを話題にしながら、駅に向かって歩く。
掌にほんの少しだけ、寂しさを覚えながら。
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