実際のところ親しい友人が本当に居るかと言われれば、答えは否だろう。
中学校の三年間が完全にトラウマになってしまってて、完全に人間不信だ。
浅く広く、そんな交友関係しか築けない。
さっき話してた奴だって、しつこく聞かれたら話しただけで親しい訳じゃない。
ギリギリ友人として付き合ってても僻みの矛先が向かない程度の整った顔は、俺にとって安心出来る存在ではあるがそこまでだ。
正直、そう話が合う訳でもない。
オタクって訳じゃないし、どっちかと言えばコイツ陽キャだし。
「顔で友達選ぶのも、本当はしたくないんだけどな。」
ぽろりと零してしまった本音に、雰囲気イケメンは目をぱちくりとさせた。
ギリギリ上の下って感じの顔のクセに、様になるから嫌んなっちゃう。
俺が顔で友人を選ぶのは有名過ぎて、イケメン認定機くんなんてアダ名が付いてるほどだから今更どうこうって訳じゃない。
親しくしてる奴らだって、それに文句を言ってくる奴らじゃないし。
でもだからと言って罪悪感がまるでない訳じゃないんだ。
寧ろ申し訳ないなって、いつも思ってる。
でも怖い。
例え痕は薄れても、味わった恐怖はずっと消えないから。
「それでいいと思うけどな。」
雰囲気イケメンはまさにふんわりって感じで微笑みながらそう言った。
いいと思えるような事なんてまるでないのに、なんでそういう風に思えるのかが謎だ。
あ、適当に返事してる的な?
「だって誰だって顔で選ぶだろ。お前を暴行してた奴らだって、顔で選んでた訳だろ?」
そう………なのだろうか。
俺にはよく分からない。
そもそもアイツらだって顔が良かったかと言われると、微妙な顔もちらほら居たように今だったら気付ける。
アレは顔で選んだというよりも、日々の鬱憤をイケメンだったアイツに関わる平凡な俺にターゲットを絞ることによって解消していただけのようにも思えた。
「それだって結局顔で選んでるだろ。例えばお前の顔がイケメンだったら、多少頭悪くてもターゲットにはされなかった筈だ。」
ヨシヨシと雰囲気イケメンが俺の頭を撫でる。
これだから陽キャは………って思うけれど、嫌じゃないからされるままにされる。
思えば久しぶりに、暴力以外の人の掌を受け入れた気がした。
「頑張ったな、お前。痛かったろ?」
………あ、コイツがモテる理由分かるな。
撫でながら一番欲しい言葉をピンポイントでくれれば、そりゃあ惚れるわ。
ぐりぐりと乱暴に見えるけど、力加減だって優しい。
「ありがとな。でもお前さぁ、俺が男でよかったな………」
「ん?なんで?」
「女子だったら勘違いするぞこんなの。」
欲しい言葉をくれて、優しくしてくれて。
こんなん勘違いするに決まってるだろ。
まぁ、俺は男だから勘違いもクソもないけどな。
「………勘違いしても良いのにぃ。」
「何言ってんだおまえ」
個人的に女の子に言われたいセリフナンバーワンをお前が言うなよ。
不覚にもドキドキしてしまった心臓は知らないフリをして、俺は可愛げもなく未だ頭の上に乗っていた掌を軽く払い退ける。
すると行き場を失った筈の雰囲気イケメンの掌は、何故か俺の頬へと戻ってきた。
「なんだよ」
「なぁ、殴られたのってこの辺?」
「は?ああ、そうだけど。」
一瞬、突然何を言い出したのか分からなかったけれど、直ぐにアイツに殴られた事かと思い出して肯定する。
丁度コイツの掌が覆っている部分。
そこを殴られて、それからそこを中心にぼっこりと腫れた。
今思い出しても、アレは痛かった。
「ふぅん。」
興味が無さそうにも聞こえる声色だが、さっきまでのふわふわとした雰囲気とは全然違う鋭い目線で見られていて背中がゾクッとする。
なんか………怒ってる?
「歯が折れたりとかしてない?」
「いや………そこまでは………」
「そっか、なら良かった」
歯が折れたら一生モンだもんねと、ニコニコと笑う。
よく分からないけど、機嫌が良くなったのだろうか?
さっきの目付きはめちゃくちゃ怖かったけど、雰囲気が元に戻った気がするので少し安心する。
いっつもヘラヘラしてる陽キャのイメージだったけど、こういう奴程怒ると怖いってタイプなのかもしれない。
「ねぇねぇ、今日放課後カラオケ行かねぇ?」
「誰と?」
「俺とお前。」
「は?二人で?」
何が悲しゅうて貴重な放課後の時間にわざわざ男二人でカラオケに行かねばならないのか。
まず陽キャと陰キャではラインナップが合わなすぎて陰キャ側の一方的な恥の上塗りである。
やめて欲しい。
「えー。じゃあゲーセンでも良いよ?俺今めっちゃお前の事甘やかしたい気分。」
「どんな気分だよ気持ち悪ぃ。彼女にでも言えよ。」
なんなら俺も彼女に言ってもらいてぇわ。
彼女なんて居ないけどな!
てかそろそろ俺のほっぺが削れそうなんで掌外してくんねぇかなぁ!
「彼女なんて居ないし俺はお前に言いたいからいーの。」
「どんな理屈だよ。」
「いーじゃん。頑張ったお前に対する俺からのごほーびだよ!」
ケラケラと笑う雰囲気イケメンは、今度はムニムニと俺の頬を揉み始めた。
何が楽しいのか知らないが、本当にやめて欲しい。
何気に気持ちが良くて、クセになったらどうしてくれるんだ。
「奢るからさ、な?遊ぼうぜ。」
ニコニコと畳み掛けるように言われ、俺はゲーセンならなと頷きながらコイツが中学校時代に出会ってなくて良かったと心の底から思った。
こんなにも居心地の良い言葉、あの時に言われてたら確実に依存してた気がする。
「やった!早く放課後にならねぇかなー」
「まだ昼休み終わってねぇぞ。」
俺の言葉に無邪気に喜ぶ雰囲気イケメンに、思わず笑いが込み上げてしまう。
例えそれがお世辞だとしても、嬉しくて仕方なかった。
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