イジメを受けてる人間が、放課後にやることなんて何一つない。
俺はひっそりと正門を通らずに抜け道を使って、学校から逃げるように帰る。
通る抜け道は日によってバラバラだ。
見付かったり待ち伏せされたりするリスクを、極限まで減らすため。
今日の抜け道は駅まで少し遠回りになるからあまり好きではなかったのだが、なんと素晴らしい事にバス停までめちゃくちゃ近くなってしまう。
バス通学バンザイ。
通学証明が必要だから定期券を作る気力は無いけど。
抜け道を出てすぐの歩道橋を登り、反対側から降りればもうバス停。
俺は早く渡邊さんに会いたくてウキウキしながら階段を上る。
渡邊さんの未成年略取については、オーナーが大丈夫って言ったからきっとなんとかなるだろうとポジティブに考えることにした。
どの道俺はもうすぐ卒業だから卒業してすぐホテルかオーナーの経営する何かのどれかに就職する予定だし、
寮生活と偽ってあのマンションで暮らす事にもなっている。
もう二度とあの家に帰る必要がないと思うと本当に―――
「千草」
階段を上った先で笑う人影。
夢が粉々に砕けて現実となる音が、聞こえた気がした。
「僕言ったよね?あの人は僕の事が好きなんだから、調子に乗るなって。」
なんで、変わったばかりの通学路が分かったんだろうか。
ドクドクと、階段を上ったからとは違う理由で心臓が暴れる音がする。
耳の中がザーザーとうるさい。
目を見開き固まる俺に、人影………弟はその綺麗な口元をうっすらと歪めた。
「お前があんまりにも人の話聞かないからさ、現実を分からせてやろうと思って呼んだんだ。」
誰を?
オーナーを?
それなら嫌々ながらも納得はできる。
だってオーナーの人生だから、俺がどうこうできる話ではない。
でも、でも渡邊さんは―――
「ほら、もうすぐ来るよ」
止めて、止めて、止めて!
コツコツと弟の背後から靴音が聞こえる。
渡邊さんのブーツの音のような気がして俺は………!
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